夢と現のあいだ、夢の入り口で私が見たもの。
天井まで届きそうな高い本棚がいくつも並ぶ書庫。私は梯子にのぼり、目についた本を抜き取って見る。表紙も中身も真っ黒な本。開いてみると闇があたりに広がった。書庫の中の本はどれも同じ黒い本で、いつしか私は闇に包まれてしまった。
きみは本当の闇を知っている?闇には質量がある。濃密な空気の気配。闇は深海の底のようにその手で柔らかく私を包み、息もできないほど私の隙間を埋めてしまう。
塗り込められた闇の中で、光るものがあった。闇が濃くなることではじめて見えた、ほの暗い光だった。抜き取って見ると、それは灰色の本だった。磨くたびにその本は白く光ったが、すぐにその光は弱まってしまうのだった。
私はそれでもいいと思った。私は闇を淘汰したいのではなく、歩くためにほんの少しのあかりがほしいだけだったから。
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