王子様は目覚めました。三原色の都で。
そこはつみきの城。赤・青・黄の三角・四角・丸が組み合わさってできた彼のお城。それらは彼の寝床を守るように囲んでいました。
王子様はつみきの城を、がしゃあんとなぎ払いました。つみきの城は簡単に崩れ、赤・青・黄のただのかたまりになりました。
王子様はオーロラ色のパジャマのまま、部屋のドアを開けました。その瞬間、ママの怒鳴り声が聞こえたので、すぐ閉めました。ママは王子様に向かって怒鳴っているのではありませんが、そのダミ声には人を震え上がらせる力があるのです。
王子様は自分の部屋をキョロキョロと見回しました。白い、殺風景な箱。部屋の真ん中では三原色のつみきが散らばったままです。
部屋にたちこめるのは甘いフルーツの匂い。そうここはショートケーキの箱の中。王子様がつみきを粉々に踏みつけると、それはカラフルなキャンディやジェリービーンズに変わりました。王子様はそれを拾って食べます。崩れたお城の真ん中に転がるクッションはマシュマロ。王子様はそれもちぎって、ふしゅふしゅと口に運びます。壁を舐めると、胸焼けしそうなはちみつの味。這っていたアリが黒いかたまりになって床にぼとりと落ちました。
外からも甘い匂いがします。王子様はオーロラのパジャマから、銀色の服に着替えて部屋の外に出ました。今度はママの声はしません。 漂う甘い匂いの正体は、雨。窓の外ではポツポツと黄金色のオレンジジュースが降っていました。
階段を降りると、玄関でママが踊っていました。手すりがチョコレートでべたべたになっていたので、王子様の手は茶色くなってしまいました。王子様がそれを舐めようとすると、ママがその手を取って、青黒い舌でべろんと舐めました。
ママは太った中年女。白いフリルのたくさんついたピンクのドレスを毎日着ています。まるでその姿は巨大なウェディングケーキのよう。頭から大きなプディングの柔らかい汁がしたたり落ちています。
王子様はママにおはようのキスをしました。きっとそのキスは甘い味。王子様はこのジュースの雨降る外へと出ていくことはありません。籠の鳥の王子様。かわいそうなとらわれの王子様。
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