ナマエとドラコは二人、湖のそばに腰掛けて話をした。ナマエの心は少し落ち着きを取り戻していた。

「ドラコは、いつ……気が付いたんですか?自分が夢の中にいるって」

言っていてナマエは不思議な気持ちになった。
だって、自分たちはそこが夢の中だと知っていたのだ。「ここは夢の世界だよ」とフィオレに言われて来たのだから。

けれど現実へ戻るためには知っているだけではだめなのだと言う。気付き、望まなければいけない。
ドラコはいつ、どうして気が付いたのだろう。


「……フィオレが僕らを夢の世界へ連れて行ってくれただろ。美しい、僕たちだけしかいない国に」
「はい」

それは、とても幸福な世界だった。

「そこで、一度君にキスした」

ナマエは花畑の夜を思い出して頷いた。

「その時、気が付いたんだ。これは夢だって。何故かはよくわからないけど……目が覚めたら医務室だった」
「……そうだったんですか」

じゃあそれ以降のドラコは、私が創り出した妄想のドラコということになる。

「君はどうして気付けたんだ?」
「……ドラコが、名前を呼んでくれたんです」
「夢の中の、僕が?」
「はい。」

その声はひどく優しく、愛おしげに紡がれた。
自分の名前を呼ばれてあんなに泣きたくなったのは初めてだ。

「その時、私思ったんです。
……ああ、ドラコに会いたいわって」

おかしいですよね、夢とはいえ、目の前にドラコはちゃんと居たのに。
そう言って、ナマエは握ったままのドラコの手にぎゅっと力を込めた。





「目が覚めた後で、ダンブルドアや……色んな人間がやってきて、僕の話を聞きたがった。……君が起きるまで何も話さないと言って追い返してやったけどね」

ドラコの言葉を聞いて、ようやくナマエの顔にも微笑みが浮かんだ。

「ダンブルドアが、トイ・ピクシー≠フことや、ここ2ヶ月であったことを教えてくれた。驚くぞ……今この学校にはディメンターがうようよ居るんだ。脱獄したブラックが忍び込んだりもしたらしい」
「……」
「分かるよ。僕もあっちの世界がどれだけマシかと何度も思ったね。……けど一番苦痛だったのは、君が永遠に目覚めないかもしれないと、不安に過ごす日々だった」
「ドラコ……、」
「君を想うと、僕はいつも孤独になった」

もう、前のようにスリザリンの寮の中で威張り散らすだけでは物足りない。隣に居るのがクラッブやゴイルやパンジーでは満たされない。彼女が良かった。ナマエが。

「君に会いたかった…」


ドラコらしくない、心の底から弱ったような声に、ナマエは胸を貫かれるような切なさに襲われた。
座ったままドラコの胸に飛び込む。
「ごめんなさい、ドラコ……私があの日、あなたを中庭へ連れていったから」
「違う。……僕は、君に感謝してるんだ。
あの日君に出会わなかったら、中庭へ行かなかったら、夢の中へ入らなかったら……僕は君に恋をしていなかったかもしれない」
「ドラコ……」
「フィオレのことも、恨んでない。あいつはきっと、僕らに気付かせようとしたんだ」


それはナマエも感じていたことだった。
もしフィオレが二人を永遠に夢の中に閉じ込めてしまおうとしていたなら、夢の中で夢を見せる必要などなかった。彼女はきっと、わざと二人に「現実」を望ませたのだった。


「ドラコ……中庭へ、行きませんか?」

ドラコの顔がぎくりと固まった。言葉を選ぶように薄い唇を開く。

「…………ナマエ、あの花はもう」
「いいんです。ーーーそれでも、行きたいんです」

ナマエの強い目に見据えられて、ドラコは腰を上げた。寄り添いあって歩く二人の影が、夕陽に照らされて湖の中へと伸びた。

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