最近巷ではよくないウイルスが蔓延していて、スーパーホワイト企業に就職していた私は出勤が二週間に一度に変わった。まじでホワイトオブホワイト。むしろ虚無。一人暮らしの私はたまに言葉を忘れそうになってしまう。彼氏は一応いるが、

「もしもし?まるさまー?こっちは在宅勤務六日目だけどそっちはどー?」
「.....」
「殺生丸?」
「.....無事だ
「声遠!さてはまたカメラに向かってしゃべってるな??もっと下だってマイクは。っていうか、ねー!六日目っつーか、土日も挟んで八日は誰とも口聞いてないんだけど!?病むわ!」
「そうか」
「地蔵かな??たまには三文字以上で応じてほしい」
「在宅勤務だからといって家で食う寝るばかりしてるとたちまち家畜になるから気をつけろ」
「そんなとこ饒舌じゃなくてよかった.....」

このザマだ。我が恋人殺生丸はモデルさんだ。うちの会社である広告を作った時に知り合った。そして彼は類まれなる機械音痴で、オンライン飲みもできなければオンライン鍋パもできない。いつでもオフライン。

「まあ、今は非常時だししゃーないか」

電話を切ってため息をつく。
幸いデザイン系の仕事をしていると、家でやることがなく社に仕事がたまりまくる地獄のような現象は起こらない。

「さ、仕事しよ」

人恋しさも寂しさも、仕事をしていれば大した問題ではない。ここが私のドライなところだと友人からはしょっちゅう怒られるが、今は世間がそれを許してくれる。外出自粛バンザイ。私は全然暇じゃない。

それから何時間経ったろう。
突然玄関のカギが開く音がした。
「えっ!?」
あれ、待って私鍵閉めたっけ?閉めたよね?てか最後に出たのいつだっけ??やばい、誰か入ってき――。

「このたわけ」
「殺生丸!?」

うちに入ってきたのはなんと驚き、殺生丸だった。

「何だあの汚物の山は」
「あ、食器.....?いやその片付けるのダルくて」
「この殺生丸の肺が邪気で穢れる。今すぐ洗え」
「あっはい」

殺生丸は私をまたぐとベランダのドアを開け放ち、換気扇をつけ、寝室の窓も開けに行った。
「空気が澱んでいる」
らしい。悪かったな。
私は皿を洗いながら、黒パンツに白カットソーだけのくせに信じられないほど様になっている我が恋人様を眺めた。顔よし、スタイルよしのパーフェクツスーパーモデルと汚部屋の組み合わせが妙に面白くて笑ってしまった。

皿を洗い終えると部屋が片付いていた。

「魔法使った?」
「相変わらず皺少なき脳味噌だ」
「それはアホという意味?」
「いいからそこへ座れ」

言われた通り元いた場所に座ると、殺生丸は一度玄関に戻り、私の前にケーキの箱を置いた。「えっ!?買ってきてくれたの?何で!?」買いたての紅茶のパックも置いた。「これ良いとこのダージリンじゃん!?何で!?」ティーセットも置いた。「プレゼント!?私今日死ぬの??」殺生丸は言った。

「全て私のものだ」
「だと思ったよ!!マジ優雅なティーパーティすんなら自分ちでやって〜」
「蛆虫のように項垂れるな。目障りだ」
「毒しか吐かんなこの人.....うおっ」

抱き締められた。

「.........まるさまー、麗しいご尊顔が近い」
「悦べ」
「いや、よろこぶけどさ.....私の情緒を弄んで楽しい?」
「私は」

殺生丸は私を強く抱き締めたまま続けた。

「ひと月.....誰とも会わずに過ごした」
「.....うん?えらいね」
「貴様のためだ」
「私の?」
「今の私が病にかかっている可能性はほぼゼロと言っていい。まあこの家に踏み入って別の菌がついた可能性はあるが」
「失礼だな」
「だが、お前のために外出をやめた」
「......」
「お前のためにやめたのだ」

殺生丸の言いたいことがだんだん分かってきたところで、しっかりと彼の背中に腕を回す。久しぶりに抱きしめられたせいか、抱きしめたせいか、いつもより胸がきゅんきゅん痛い。もういいや、ケーキも紅茶も、殺生丸が食べてるのを見るだけで幸せだもの。

「ねー、殺生丸。私も会いたかったよ」
「調子に乗るな。そこまで言ってない」
「はいはい天邪鬼め……。ところで玄関にバカでかいトランクあったんだけどまさか住む気?」
「背に腹は代えられん」
「えー!そんなことなら私が殺生丸の家行きたかったよ。あの豪邸」
「菌だらけの女は上げぬ」
「ねえ、デレとツンの比率もう少しどうにかなんない?」
「……あの家は広すぎる」


お前と離れて過ごす意味はない、と今一度強く私を抱きしめた殺生丸に、もはや言うことは何もない。
……いや待ってあるわ。しいて挙げるならだけど。このテーブルの横に立てかけられている私のPC、私片付けた覚えないんだけどまさか主電源落としてないよね?あれ?保存ボタン押してくれた?コンセント抜けてない?あれ??エ??
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