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「つまりお前は、俺に想いを告げれば、俺のお前に対する思い入れが増えて、もし自分が死んだとき辛い思いをするだろうからと思ってこれまで何も言ってこなかったわけだな」
「………その通りです」
「自惚れの上にひとつたりて確証のねぇクソのような仮説だ」
「ごもっ、ともです、ぐぅっ」
兵長は私の両手のひらに真顔で消毒液をぶっかけている。私はそれに耐えながら、そろりと兵長の顔を見上げた。
「………兵長、すきです」
「………」
「すき……」
「何だ、てめぇ……」
「すいません」
でも、一度口にしてしまったら、あとはもう三回も四回も同じような気がする。
「今まで我慢してたから、どうにもとまらなくて」
すきです。
すきですよ、兵長
兵長は私の手のひらに包帯を巻き付けながら、僅かに赤みの差した耳をかいて私を見下ろした。
「お前、考えたことねぇか」
「え?」
「自分はもうとっくに俺の中で替わりのきかねぇ場所にいると」
私は自分の顔が赤く染まっていくのを感じた。
そうであればいいと願ったことが幾度もあると知れば、兵長は呆れてしまうだろう。
「で、でもそれこそ、自惚れです」
「だがこっちは俺の確証付きだ」
「やめてください……勘違いしそうです」
「何故だ、すればいい。そもそも俺は好きでもねぇ奴にキスなんかしねぇ」
あれは、私の口を割るためのショック療法か何かだと思っていた。
「………テメェの言う通り、俺は強いが、そんなに言うほど、強くもねぇ」
「兵長」
「だから今度から、お前は自分を守ることだけを考えろ」
それだけでずいぶん救われる
そう言った兵長は、少しだけ眉を下げて、笑った。
私が再び兵長の熱に抱かれ、その幸福に沈むのは、それからまた少ししてからのことだった。
〜死なない兵士〜 END