耳障りのいい音楽で目を覚ました。これは.....バイオリン?
「ヨホ、お目覚めですか、お嬢さん」
「.........ぎゃーーーーーーー!!!!」
ド肝、抜かれた...。
尋ね人6/ブルック(海賊・音楽家)
「あ、あなたがブルック.....?」
「ヨホホホ!お初にお目にかかります、そう、私ブルックです!」
「ごめん.....話は聞いてたけど、まさかガイコツだとは思わなくて。あと天井低くてごめん」
「いえいえこちらこそ。女性の寝室に突然おじゃましてしまって、恥ずかしいやら申し訳ないやら。あ、パンツ見せてもらっても宜しいでしょうか」
「みせるか!」
ペちっと冷たい額を叩く。
ブルックは胸の前で手をパーにして驚いたポーズをした。
「なんということ!やはりあなたは、みなさんが言うようにとてもお優しい」
「.....あ、ごめんあの、これはショーパンと言ってパンツではなくパジャマ」
「そうではなく!.....ヨホホホ、これですよ、これ」
ぺち、とブルックは私の額を軽く叩いた。
いつもはナミちゃんに制裁で吹っ飛ばされるらしい。バイオレンスワールド。
「ねえ.....ブルックは本物のガイコツなの?」
「そりゃもう鎖骨から肋骨から何から何まで本物です!ヨホホホホ」
「ふふ、見せて」
「いいですよ」
暫くの間ブルックの手や腕を触らせてもらった。
学校にある人体標本よりも精巧で、なんとなく温もりすら感じる。
「目の中も手突っ込んでみていい?」
「コワイ!!!なまえさん怖いですよあなた!!」
「さすがに痛いのかな」
「いえ痛くはありません。私、ガイコツですから!」
「えいっ」
「ぎゃーーーーー!」
ブルックはとてもいじりがいがあって面白かった。彼はお化けが嫌いらしい。私の部屋の鏡を見て「キャー!おばけ!!」と言っていたのは本当におかしかった。
「ブルックは音楽家なの?」
「ええ、そうですよ」
「みんなが戦ってる時にはBGMを?」
「その時は私も戦います。ヨホホ」
どうやって戦うのかは教えてくれなかった。私は知らなくていいことらしい。それもそうか。
「なまえさん、では朝の一曲、何かリクエストをしてくださいますか?」
紳士な骸骨はそんなことを言ってくる。
「ブルック、なんでも弾けるの?」
「ええ。あらかた」
「ならーーーーは??」
自分が前のめりになっているのが分かる。
ブルックは少し動きを止めて、それから申し訳なさそうにバイオリンを下ろした。
「.....喜ばせておいて申し訳ありません、なまえさん。私、その曲を知らないようです」
「.......そう」
自分の酷く残念そうな声が恥ずかしく、にっこり笑うとブルックに額を叩かれた。
「けれど世界が変わろうと、音楽は同じです。人の心に響き、魂を揺さぶる。ーーーなまえさん、鼻歌でいいので、覚えているところだけ歌ってくれますか?」
そう言うとブルックは、再びバイオリンを構え直した。
覚えているところ.....。
「.....ーーーー」
雨の中、男性が傘もささずに夜の街を歩く。
水たまりを飛びこえて、
スキップして、
好きな女性のことを想う歌
いつの間にか私の鼻歌にはブルックのバイオリンが添えられていた。優しい音色。
たまに音が違うけど、外れている訳じゃない。彼オリジナルのその曲はとてもとても、愛らしく純粋で、優しかった。
ぽとぽと頬を流れる涙を隠すように、枕に顔を押し付ける。
「ありがとう、ブルック」
彼の笑う気配がした。
「もしあなた達の船に行けたなら、毎日、その曲を聞かせてね」
私がそう言うと、イエスのかわりに最後の音の余韻を残し、ブルックも元の世界へ帰った。
もう分かる。
彼らと私を繋ぐのは「約束」。
私が一番遠くに置いておきたいものが、この現象の絶対条件だった。