胴体と手足と首をやっとこさくっつけてもらえたヤマトさんはけろっとした顔で伸びをしている。ローさんの不機嫌さはこれまでに類を見ない。
「ふー。やっぱ五体満足ってのは有難いもんだな」
「……」
「悪かったって。そんなに睨むな」
「俺を騙した事はもういい。思う存分切り刻んだからな」
「もう二度と体験したくねぇぞアレは」
「俺がキレてんのは、てめぇの浅はかさにだ。……もし俺が本当になまえを殺してたらどうする気だった」
ローさんの目が鋭く殺気を放つ。しかしヤマトさんは、その殺気を受けても尚へらりと笑んでいる余裕さを見せた。
「そん時はそん時だ」
「…」
「てのは冗談で。」
「次ふざけてみろ。…今度こそ殺す」
「ああ分かったよ、気が短ぇな」
ヤマトさんはキセルを手に取ると、すうっと深く息を吸い込んだ。やがて宙に浮いた煙の形は細く引き伸ばされたハートだった。
「もとから、お前が殺すなんざ考えてなかったんだよ」
「…どういう意味だ」
「ここで道案内をしてるって言ったろ。海賊の。…あれは本当だ」
ヤマトさんはどこか卑屈っぽい笑みを漏らし、カウンターのあちら側から私達を見つめた。
「今までに会ったどの海賊とも違う。正直、お前は底が見えなくて気持ち悪ぃよ」
「そんな奴に、よく殺しの催促が出来たもんだな」
「だからこそ分かった。」
「…」
「底の見えない、掴み所のない男の目には、なぜか確固とした意思があった。覚悟もあった。俺は何よりそれが信頼に値すると知ってる。――何故なら。俺がそうだからだ」
お前と一緒にするな。ローさんは、何故かその言葉は口にしなかった。
ただ黙って、ヤマトさんの言葉の続きを待っている。
「お前はその子を殺さない。お前にとって必要な存在だと…トラファルガー・ロー。お前はそう認識しているんだろう。それが分かったから、俺は気兼ねなくおふざけに興じられた。そういうわけだ」
ローさんはくるりと踵を返した。
「え、っ」
「いくぞなまえ。欲しい情報は手に入った…。長居の必要はねぇ」
「は、はい」
慌ててローさんの背中を追いかける途中で、足を止めた。
振り向いた私に、ヤマトさんは首をかしげる。
「ありがとうございました!」
ヤマトさんは一瞬呆気にとられて、それから盛大に吹き出した。
「また遊びにおいで。なまえチャン単品なら常に大歓迎だぜ!」
「バカが。」
「うげっ」
私の首に後ろから腕を回したローさんは、もう片方の手でヤマトさんに中指を突き立てた。
「こんな胸糞悪ぃ店、もう二度と来るか」
ヤマトさんは笑っていた。ローさんも、もうさっきほど怒ってはいないらしい。
そういうわけで、私はローさんとの再会を果たすことができた。向こうの世界へ繋がる手がかりも得ることができた。
とにかく
「なまえ」
「はい?」
「……何でもねえ」
「え!」
「うるせぇな。黙ってろ」
「ちょ、言いかけて止めるなんて」
「今日の晩飯はニクジャガだ。いいな」
「いいけど!えええ…」
「…フフ」
とにかく、私達の日常は、またもとの生活へと戻りつつあるのであった。