私が保っていたほんの僅かな距離は、あっと言う間にローさんが埋めた。
視界の端に映り込む、地面に放られた鞘。それを瞼を落としてシャットアウトすれば、ローさんの鼓動だけが私の全てを埋めるのだった。

「……もう会えないかと、思いましたよ。本当に」
「悪いな。…あいつを殺したら会いに行くつもりだったんだ」
「その頃はとっくにローさんなんか…」
「俺のことなんか忘れてる、か?」
「………いいえ。」
「フフッ…無駄に足掻くな。チビ」
「なんか、今すごい安心してます。…なきそう、」
「止めろ。ブスになる」
「きらいです…うっ」

ローさんの大きい手。私の髪を、頭に添うように撫でながら、ローさんは続けた。

「よく聞け。なまえ」


「お前を殺して、元の世界へ戻った俺は、きっともう船長を名乗れねぇんだ」
「、?」
「こっちで俺を救ってくれたお前は、向こうの世界で俺を救おうとするアイツ等と同じだ。
クルーを殺す船長は、日を待たず海が殺すもんさ。
俺はお前を殺さずに帰る方法をまた探す。」

だからそれまでは、すぐ泣くどっかの寂しがり屋の傍にいてやるよ。

その言葉が、嬉しくてたまらなかった。
感動に胸が好き勝手弾むのをせめて抑えようと、ローさんの腰をぎゅっと抱き締める。ありがとう、顔をあげて、そう声を洩らしかけた時、私の視界にとんでもないものが飛び込んできた。

目に痛い黄色いプラカード。
枠の中にでかでか書かれた文字を、脳内で噛み砕いた時、背中がゾクリと冷や汗で溢れた。
――ど、どこ、から…?いや、それよりもまずローさんにアレを見せてはいけない。

しかし、

「どうした。」

気配に敏感なローさんが私の異変に気付いたのも、そりゃもう早かった。
私の視線を辿った彼が手に取るより早く、私は地面に突き刺さった刀を引き抜いて彼から距離を空けた。

身も凍るような、長い長い沈黙が空気を更に更に重くするのだった。
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