「おいおいおい!そんな物騒なもん出すんじゃねぇよ。こちとら一般市民だぜ?」
「…」
「情報ならやるよ。もちろんタダでな」
「?」

自分の顔が怪訝に歪むのが分かる。
――…どうも胡散臭ぇ。この男、何か企んでんのか?

「そう疑うなって。俺も万屋。確かにいつもは情報とて無料で売り買いなんてしねェ。」
「…何が目的だ」
「ハッハッハ!ねーよそんなもん。」
ヤマトはひとしきり笑うと、すっと顔を引き締めた。

「ただ、俺が今からお前にやる情報が酷過ぎて、金取る気にゃなれねェだけよ」
「??」
「お前、こっちに来てから誰と暮らしてる?」

何か思惑ありしと疑ったが、ヤマトの目が至って真剣なのを見て、俺は口を開いた。
「普通の」
「…」
「……普通の女だ。」
「女?」
「ああ。」
「そりゃ良かったな。食ったのか?」
「殺されてぇのか」
「ハハハ、冗談だ冗談。」
「…ふざけた事は喋るな。」
「へーへー。…成程な。お前が何で学生服着てんのか、よく分かった」
「…」

ヤマトはカウンターに肘を置くと、目をくるりと回して口元を歪ませた。煙管の先端をローに向け、言う。


「じゃあお前、そいつ殺せ。」


―――ガシャァン!!!
咄嗟に屈んだヤマトの首があった位置を、ローの刀が勢いよく行き過ぎる。
背後にあったガラス製の棚が割れ、中から物ががらがらと崩れ出た。

「オイ!店壊すんじゃねェよ!」
「俺はふざけた事は喋るなと言ったはずだ。…次は殺す」
「冗談止せ!これは本当の話だ。――俺のところに来た海賊、アイツは相当な荒くれモンでな。」
「…」
「こっちに来た途端女つくって、そこで寝泊まりしてたらしいんだが。一週間経った頃、女と激しい言い争いになってうちに戻ってきた。そいつを追って女も来た。苛立った海賊の男は女を殺した。
で、最後男は消えた。」


残ったのは死体だけだ。
一息に喋りきったヤマトは肩で息をしていたが、俺は、頭の隅まで冷たく冴え渡っていた。
「……親しいものを殺すこと。それがお前が向こうに帰るための手段だ」
「…。」
「嫌なら殺さなきゃいい」

俺にもう攻撃の意志が無い事を悟ったのだろう。
ヤマトは深く溜息をついて、煙管を置いた。その瞳には恐怖など欠片もなく、俺に向くのは挑戦的なまなざしだ。

「この世界に馴染み、日和るのも悪くねえぞ?」
「……。」

親しい人間を殺す…
なまえを、…殺す?


「ローさん」



「…お前は、誰だ」
俺の問いに、ヤマトは至極愉しそうに笑んで視線を下ろした。

「百貨店の店長兼、道案内の親切なおじさんさ。お前みたいな迷子に、帰る場所と方法を教えてやってる」
「…人殺しの煽動が、随分聞こえの良いもんだ」
「選択の余地もやってるだろ?」
「あァ……そうか。じゃあ。」

俺は刀を床に突き立てて、ヤマトの瞳の奥を睨みつけた。

「今日から俺はここに住む。何年でも住み着いて、…――お前を殺して元の世界に帰ってやるさ」
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