その後、粘りに粘った私は七瀬さんからヤマトさんの情報を得て、学校を抜け出した。
昔の私が、こんなに行動力のある自分を見たら驚くだろうな。
「ここ、か」
七瀬さんの書いてくれた地図を頼りにして私が辿り着いたのは、『百貨店ヤマト』という看板を下げた、小さな木造の店。
カウンターの汚れで曇ったガラスのショーウィンドウ越しに、どこの国の置物なのか分からないものがズラリと並んでいる。
(…奥はお家、なのかな)
奥の本棚の傍に扉がひとつある。しかし、店員らしき人の姿はどこにも見えない。
「ご……ごめんくださーい」
「あ゛?」
「ぎゃ―――!!」
誰もいないと思い込んでいた場所から人が現れたら、そりゃだれでも叫ぶってものである。
「ふぁーあ」
ダンボールの山から体を起こした男の人は、大欠伸をしながらボリボリと頭をかいた。
「最近は客が多くていけねぇ…。……おちおち寝てもいられねえぜ」
浅黒い肌。無精ひげに、サングラス。
もしかしてこの人…
「あ、ああ、あの。あのあのあの、……ヤマト、さん…ですか?」
ギロリ。サングラス越しに鋭い視線が突き刺さる。
「あ゛?誰だ、おま…―――」
すっかり萎縮しきった私を前に、ヤマトさんと思しき男の人は言葉を途絶えさせる。私たちの間に、重い沈黙。1秒、2秒、3秒。
「うおおおっ!?!?」
「(ビクッ)」
「JK!?」
「は、はい!」
カウンターに乗り出したその人は、サングラスを頭に押し上げて輝く目をこちらに向けた。
「まさか俺の店にリアルJKが来てくれるとはなぁ…!さては七瀬のクソガキだな!あいつもたまにはイイ仕事しやがるぜっ!」
「あ、はっ、あはい!」
「そうだった、忘れてた、俺の名前はヤマト!あんたが探してるのは間違いなく俺のこった」
差し出された手を握る。
――ヤマトさん、想像してたのと随分違う…
「いやぁ、嬉しいぜ!ささっ!あがんな!」
「いいです」
「ガッテム!!」
「ギャー!」
断った途端、ブリッチが如く反り返って倒れたヤマトさん。まさかこんなことになろうとは!
「な、なぜだい!?別に変なこたァしねーよ!」
「…」
言いつつも手がワキワキ動いているのは何でだろう。
「な、七瀬さんが!」
「七瀬が?」
「や、ヤマトさんの家(テリトリー)には死んでも足を踏み入れちゃダメだって」
「へえ。…そりゃあ」
がっかりした顔のヤマトさんが一度カウンターの向こう側に消える。首をかしげて見守る私の前に再度現れたヤマトさんは
「あのガキ、次会った時は、気飛ぶほど泣かせてやんなきゃなァ…」
既に赤黒く変色したチェーンソーを手にしていた。
「ぎゃぁぁあななせさんんごめんなさぁぁあい!!!!」
「アッハッハッハッハ!」
冗談だ、冗談。チェーンソーをダンボールの山の方へ投げ捨てながら笑うヤマトさん。
笑えない笑えない笑えない。
これちょっとローさんに初めて会ったときレベルの恐怖なんですけど。
…ハッ!
「あの!!」
「?」
恐怖なんて感じてる場合じゃない。
「私…あなたに尋ねたい事があってここへ来ました。」
「俺に?」
「ローという人の行方を、ご存知ないですか…?」