その日、いつまで経ってもローさんは帰ってこなかった。怒りとも悲しみともとれるような複雑な感情を胸に抱きながら、私はひとり強張った顔でベッドにもぐった。
今にも、玄関のドアノブが回される音がする気がして。
ローさんは鍵を持ってないから、私が開けてあげなきゃ、なんて、随分長いことずっと耳を澄ませ続けていた気がする。

気が付いたら、そこにはもう朝が来ていた。
ローさんは隣にいなかった。
"海賊"のローさんが話すお話を聞かずに眠ったのは、ずいぶん久しぶりだと思った。

見えない刃に貫かれたみたいに胸はキリキリ痛んでいたのに、痛んでいるはずのその中は、ぽっかりと空いているようだった。


**


重い体を引きずって学校へ行けば、校門を入った瞬間、後ろからがっと肩を掴まれた。驚いて振り返る。
「ろ、っ……」
「おい!!どういうことだよ!」

「慎太郎…くん?」

そこにいたのは、目を三角にした慎太郎君。

「男が約束をやぶるなんて最低だ!」
「あ…いや、わたしおんなのこ…」
「アンタじゃねぇよ!」
「ひー!こわ!な、何の話ですか??」
「トラファルガーだよ!!」

ローさん?聞き返すと、すっかり気が立っている様子の慎太郎君はフン!と頷いた。
「昨日いくら待ってもアイツはこねェし、あんたは帰ったっていうし、俺は今とんでもなくブチ切れてる」
「来なかったんですか……?ローさん」
「だからそう言って、……あんたら一緒にばっくれたんじゃなかったのか?」
慎太郎君は怪訝そうに首をかしげた。
校門付近で突っ立っている私たちはそれなりに好奇の視線にさらされていたが、今は特に気にならなかった。

「ちがいます、私…てっきり行ったものと」
「…きてねぇよ」
「でもローさんは約束をやぶるようなこと」
「してんだろ。実際」

私は黙ってしまった。
――お前に何の挨拶もなく消えるなんて…

「そうですね。…嘘吐きやろうです」
「…は?」
「ローさんは嘘吐きやろうなんですよ!そりゃ、私みたいな小娘にした約束のひとつやふたつ、やぶったってどーってことありませんもんね」
「ちょ、どうしたんだよ、急に」

私が校舎に向かってだっだっと歩き始めるのに、慎太郎君は混乱しながらついてくる。


「海賊ですもん、うそだって平気でつきますよ。」
ぼそりと呟く。

「…あんたら喧嘩してんのか?」
「してません。しりません、あんなひと」
「してるんだな」
「ちがいます。ローさんが勝手に絶交宣言しただけです。だから、わたしだってもうローさんなんてしらない。もう……どうでもいいんです」

漠然と、だけど。
今日ローさんは学校にこない気がした。
もしかしたらもう二度と会うことはないのかも。

「……はぁ。」

私の腕を掴んで引き留めた慎太郎君は、険のある言葉ではなく、呆れたふうなため息を溢した。

「…いいか?」
「…?」
「あいつは嘘吐きだが、あんたも大概うそつきだ。」
「、え」
「さっき、俺をトラファルガーと間違えただろ」

慎太郎君に後ろから肩を掴まれた時、無意識に、ローさんを呼んだ。
私の胸をかすめたのは期待だった。
ぽろぽろっと、ほっぺたを涙が転がるのが分かった。

「な、なくなよ!」
「……うっ」

本当はおこってなんかいないのだ。
ローさんがうそつきじゃないことくらい、知っているのだ。
何か理由があるにちがいない
でもその何かが分からないから悔しいだけ。

「、…!」

おこってなんかない。


ほんとうは、ただ、とても

とても
さみしいだけ。
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