――ガチャ
「ただいまー」
とりあえずローさんとちゃんと話さないと。もし私のせいでローさんが帰れないんだとしたら、それなら私は潔くローさんとさようならをしよう。でもそうじゃないなら、話してくれなきゃ納得できないというものだ。
リビングに入って時計を見上げる。
ローさんは今、剣道部で練習中だろうけど、あと1時間もすればそれも終わるはずだ。
(…?)
私は奇妙な違和感を感じ、リビングを見渡した。
今朝家を出た時、うちはこんなにきれいだったかな。
帰ってから洗おうと流しに置きっぱなしだったお皿はもうすっかり収納されていて、椅子に掛けておいた二人分のバスタオルも畳んでテーブルの上に置いてある。
私は背中がすっと冷たくなるのを感じた。
「、っ…」
私はリビングを飛び出して階段を駆け上り、自分の部屋の扉を勢いよく開けた。
そして私は、心に差し込んだひとつの予感が、ぴったり的中した事を知る。
「……ローさん」
返事は、ない。
彼はここにいないのだから当たり前だ。
部屋の窓辺、いつも壁に立てかけてあった長い刀はどこにも見当たらない。
クローゼットにかけておいた彼がこちらの世界に来た時に着ていた服もない。
学校行く時だけだ、としぶしぶ机の上に置いていたあの帽子も、ない。
「…ロ、…さん」
返事は、ない。あたりまえだ。
彼はもうきっと、ここへ戻る気はないのだから。
「……うそつき…」