「初対面の相手に なかなかのご挨拶だな」
「なっ」

ローは自分の刀でそれを受け流すと、茫然と眼を見開く男の首元に切っ先を宛がった。

「な、ぜ…!」
「悟られたくなけりゃ気配隠せ…ついでに、殺気もな」
「!」

驚愕の後に真っ青になった男に笑いかけて、ローは大きく刀を振り下ろした。男の胴体は二つに割れた。
「うわ、うわあああ」
背後の仲間達が悲鳴を上げながら飛びのいて逃げていくのを愉しそうに見送って、ローは目線を下へ。

「どうだ?斬られて生きてる気分は」

もはや言葉も出ないらしい。
自分が生きている意味は分からず、しかし確かに斬られているのは見て分かる。
いまにも気を失いそうな男にローは優しく言った。

「そんなことより二つほど質問がある。答えればくっつけてやるから安心しろ、まず」

―――ガッ
無我夢中で頷く男の胴体を踏みつけながら、鞘に収めた刀を担ぎ、ローは目を鋭くさせて問いかけた。
ローは自分の中でざわざわと黒いものが蠢くのを感じ、男の顔に恐怖を刻み込みながら、薄れかけていた感覚が研ぎ澄まされるのを感じ、そしてそれを享受した。

「あいつは、無事だろうな」

**


「いや、いや!痛い、佐竹君」
「もう誰にも邪魔させない…なまえさん」

佐竹君は私を草むらに引っ張り込み、その細腕からは考えられないような力で捻じ伏せた。これは…まずいかもしれない。というか、マズイ。

「っローさん」
「あいつを呼ぶな!」
「!」

頬が熱を帯びてようやく叩かれたことに気付いた。
じんわりと涙がにじむ。

「…ごめんね。けどなまえさんが悪いんだ、アイツのことなんて呼ぶから」
「佐竹、くん」
「?」
「わたし、あなたを好きじゃないよ」

これを言えばどうなるか、なにされるか分からない。でもそうせずにはいられなかった。草の茂る地面を背にしながら、黙ってこちらを見下ろす彼を真っ直ぐに見上げた。
――正直 こわい、けど


「お前が怖くなくなるように、俺が話をしてやろう。なに大したもんじゃねぇ

 とある偉大な、海のはなしだ」


「…」

大丈夫。わたしはあの時のままじゃない。
それにローさんは強いから。あのひとの強さを、私が疑っちゃいけない。

「へえ…なまえさんもそんな目をするんだね」

佐竹は一拍置いて、急に声を荒げた。

「ぼくを!僕を、否定するな!あいつより、僕が良いと言えよ!」
「いわない!」
「っ」
「ローさんはここに来てくれる…絶対!」
「分かんないのか!あいつは死ぬんだ」
「死なない!」

だってローさんはもとの世界に戻らなきゃいけないから。ローさんを待ってる仲間がいるから。夢があるから。
だから、ローさん、は

「ま…いいや」
「っ」
「今はなまえさんがここにいる。あなたさえ手に入れば、僕はそれでいい」
「!」

佐竹君の手が服の裾にかかっても私は泣かなかった。悲鳴も上げなかった。その必要は、とっくになかったから。

「おそい、よ……」

佐竹君の首元に添えられている長い刀を、私はもう怖いとは思わなかった。

「.....ヒーローみたいなタイミングで助けに来るんだね」
佐竹君の声は震えていた。
「…」
ローさんは何も答えない。
「何か、言えよ!この死に損ない…っ、どうしてここに来るんだ!」
「…」
「ようやくなまえさんと一緒になれるところだったのに…!お前が、来たせいで!」
「ローさんッ!!!」

なまえの悲鳴じみた叫び声がその場に木霊し、服の裾からナイフを滑らせた佐竹がローの足に振り被った。ガギィン、と鈍い音がして、その刃がローの足を貫通しなかったことを知らせる。
佐竹君のナイフを弾き、その身体を受け流すと、ローさんは何も言わずに私を抱き起した。「ちょっとだけ待ってろ」と囁いて、私を背中に回す。

「前にも言ったろう。俺は自分のものを他人に弄られるのが大嫌いなんだ…。殺しちまいたくなる」

覚悟しろ。地を這うようなローの声を聞いて、なまえは固く目をつむった。
自分の命を狙った相手にローさんはきっと手加減しない。

――そう思っていたのに。ローさんは土壇場で刀を地に投げ置くと、大きく引いた拳で、佐竹君の白い頬を思い切り殴り飛ばした。
目を白黒させる佐竹の胸ぐらを掴んだローは、眉を寄せ、押し殺すように口を開く。

「こんな汚ェやり方で、こいつを傷つけるのは止めろ」

もしかしたら
ローさんは気付いていたのかもしれない。私は不意にそんな事を思った。

「俺を殺しても、こいつはお前のものにはならねぇ」
「なに、を…」
「言ったはずだ。なまえはお前にちゃんと、お前の目を見て、自分の気持ちを」
「!!」
「だから傷つけるな。怖がらせるな。……解ったな」

それだけ言うと、ローさんは私に背中を向けて、おもむろに屈みこんだ。これは「乗れ」ということだろうか。
普段なら遠慮して自分で歩くところだが、今は、ありがたかった。

ローさんの背中に身を任せたところで視界の端に項垂れたままの佐竹君が目に入った。
私は、黙って目を伏せた。
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