「皆さん、そこらへんに集合してくださーい」
「そこらへんってどこだよ!」
「ここらへんだよ」

山本の声掛けによって集まったクラスメイト達。いつかのように壁に寄り掛かるローさんの隣で、私はそっと溜息を吐いた。
ようやく…一日が終わった。

「じゃあ、ハイ。皆さんお疲れさまでした。皆さんの協力の甲斐あってうちのクラスの収入が校内トップだったらしいです」
「収入額は48020円。そのうちの10400円が池山、22000円がトラファルガーのお客から入ったもんです。ということでドンマイ池山」

親指を立てる飯島君に「俺が負けるわけないだろ!」「つーか何で勝負してたの知ってるんだ!」と憤慨する池山君。
真っ赤になった池山君はズカズカとローさんの前にやって来た。

「く、くそッ!お前なんか…今日は、たまたま」
「馬鹿だな」

いつの間にか後ろに回ったローさんは両手であたしの耳を押さた。
頭のてっぺんに重みを感じるから、きっと顎が乗っているんだと思う。見る間に池山君の顔が険しくなっていく。何がバカ?…聞こえない。

「コレを賞品にしたのがお前の敗因だ」
「っ!」
「諦めろ」

両手が耳から遠のいた頃には池山君は歯噛みしつつ涙目で、あたしは何が起こったのかサッパリ分からなかった。

「そうだぞ池山。諦めろ」
「新しい春でも見つけに行こう。な!」
「なぐさめんなよ山本!飯島、お前は楽しんでるな!」
「まあまあ皆、とにかくお疲れ様!差し入れ食って、月曜からの学校に備えてください」

ローさんは解散の声と同時に教室を出た。私も慌てて後を追う。

「…差し入れ、いらないんですか?」
「ああ…。お前は」
「あたしもいいです」
「俺には遠慮するなよ」

前を向いたまま言ったローさんを私は斜め後ろから凝視する。え、え…今なんて?あのローさんが遠慮するなって?

「――――痛い、無駄に痛いですそのデコピン。とっても理不尽だし」
「失礼な事を考える悪い子にはこうだろ」
「(言い返せない)」

「たぶん、ですけど」ローさんがちゃんと耳を傾けてくれているのが分かる。
私は少しだけ考えて、思った事を口にした。

「話していて楽しいって感じられたのって、ごく最近…ローさんに会ってからのような気がするんです」

自分から話したいと思うのも
この人の話をもっと聞きたいと感じるのも、はじめて。

「今まで男の人が苦手だったのがウソみたい」

昇降口を出ると、学園祭の後片付けにいそしむ数人の生徒達が駆けまわっていた。
校門を抜ける私達を夕陽が照らすのはいつもと一緒だ。

「こうやってローさんと二人で帰るのだって、本当はありえない事なんですよね」
「俺はこっちの人間じゃないからな」
「そう…そんな奇跡みたいな事が起きてるんだから、大事にしたいな。って思うんです。変だけど、そう思うんです」

結局のところ私は何が言いたいんだろうか。ローさんと一緒にいるときは楽しい、そんなような事が伝えたかった。
果たして伝わっただろうかと頭を悩ませつつ、覗くようにその横顔を伺うと、予想していたよりずっと嬉しそうな目元が一瞬見えたから、心臓がドキリと飛び跳ねた。

「なら、俺も暫くは遊んでやる」

これは、ビックリした時の方の「ドキリ」だと、今はまだ思っておきたいところである。
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