「どうぞ」

低く囁いたローに三人組の女子生徒達は"噂のイケメン転校生"にもてなされキャーキャーと色めきたっていた。
もてなすと言ってもローがするのは茶を入れて彼女達の前に置き、ふてぶてしく腰を下ろしているだけだ。「あ、あの、何か飲み物飲みますか」「アイスコーヒー」と時折こんなことさえあった。
ローの頭を占めるのは先程のやりとりだ。

(さて、どのようにしてあの、何と言ったか忘れたが…、あの小生意気なガキに思い知らせてやろうか)

よりによってなまえを引き合いに出したのは池山の痛恨のミスと言ってよかった。彼女が関わると、この男は自分にもよく分からない独占欲を掻き立てられるのである。

「ねえちょっと!クマの中に入ってたのって、あのひと?」
「うん!ヤバくない!?」

それは斜め後ろの席についた女子生徒達の会話だった。
午前中の客か。彼女達は会話がローに筒抜けなことには、まだ気付いていない。

「あのコス、軍服かなぁ」
「看守って誰か言ってたよ」
「やーん、似合う!萌える!」
「あの人看守ならアタシ囚人でも全然いい……!」


ローは静かに席を立ち、自分のテーブルにいた女子達に「動いたら殺すぞ」と一声かけて後方のテーブルに向かった。
この一言に意図は皆無だったが、彼女達は言うまでもなく腰砕けとなった。

「おい」

静かに歩み寄ったローに気付いた女子生徒達が「きゃあ!」と黄色い悲鳴を上げる。

「間抜けだな.....。まだ気付いてなかったのか」
「えっ、え?!」
「ここはとっくに檻の中だ」

テーブルに手をつき、名も知れぬ女子生徒を長い腕の間に閉じ込めたロー。もう片方の手をホルスターに伸ばし、拳銃を取り出す。
隣の席についていた少女は、その黒光りする玩具が確かな質量を持って自分の顎をすくうのを感じた。

「ほら、脱獄してみろ。追いかけてやる」


ローにはあって池山にはないものは、経験の一言に尽きるわけである。

**

「タンカだー!タンカ用意しろー!」慌ただしくなった教室内、その渦中にいる人物に心当たりのあるなまえは、不安げに席を立った。

「あれ?もういっちゃうの?」
「え、あ…1テーブル10分のきまりなので、すいません」
「へえ、残念…」
「き、今日は、3組コスプレ喫茶に来て下さって、ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
「大分楽しませてもらった!どうも」

もう一度、藤堂さんと永谷さんに頭を下げて、テーブルを離れた。

「ローさん!」
「あ?」
「何かあったんですか?今一人…タンカで」
「少しやりすぎたか」
「ええええ!!や、やややりすぎたって一体何を」
「気にするな」
「んな無茶な!…いいですかローさん、くれぐれも!くれぐれも騒ぎを起こさないようにしてくださいねっ」
「分かってる。俺に命令するな」
「命令じゃないお願いです!」

しかしどうしたことだろう、さっきまで「学園祭?ハ?ガキのお遊びか面倒くせェ」みたなテンションだったのにこのやる気は。

「何かあったんですか?」

ローさんは黙ってこちらを見据え、やはり黙って背中を向けた。
「別に何もねぇよ」
背中越し投げられた返答はどこか楽しげで。

まあ、いっか。私はそんな風に思った。

(つまんなそうなローさんより)
(楽しそうなローさんのほうがずっといいもんね)
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