「え、何どうしたの!?」
「女の子が転んじゃって、下敷きになった着ぐるみがチョーカッコイイの!!」
「着ぐるみが!?」
「違くて、着ぐるみの中のイケメンがさー!」
「ホント!?見たかった〜」
「執事の人が『彼は午後の部のスタッフですので』って言ってたから午後にまた来ようよ!」
「マジ!?いくいく〜!」
「ほーんとにかっこいいんだから!!」




店内でのプチ騒動は委員長によって丸く収められた。その後のお客さん(女性に限り)の反応及び会話はこんなところだ。
午前スタッフのローさんを午後スタッフに回し、ちゃっかり午後の宣伝までして場を収めた山本の采配は流石としか言いようがない。

「…すいません、ローさん。あたしがアホでドジなばっかりに」
「全く以てその通りだ」

裏方で休憩を取っていたローさんは微たるフォローも入れずに言い切った。

「おかげで俺は、このバカげたお遊びを真面目に遂行しなけりゃいけなくなった」
「(良いことじゃん!)」
「殺すぞ」
「申し訳ありませんでした」

こうなりゃ…オイ、とローさんは同じく休憩の山本君に声をかけた。

「午後の部。こいつもスタッフとして参加させろ」
「いいよ」

間髪いれず頷かれて度肝を抜かれたのはなまえの方だ。

「ええええええ!!」
「煩ェ」
「はひ…ふひまへんれひは、ほっぺはひっぱんらいれ…」

ジンジン痛む両頬をさすり、涙目になりながら小声で訴える。

「山本君、なんであたし」
「だってそうじゃなきゃトラファルガー君出てくれなそうだったし」
「分かってるな」
「で、でも、でも私の意思が」
「大丈夫」

なまえちゃん可愛いから。にっこりそんな事を言われたが、一体何が大丈夫なのか、となまえは思わずにはいられないのであった。

ーーーーーーーーー

「ほら、とっとと歩け」
「やだやだ、やです!お願いローさん」
「…...その姿で"お願い"されると結構クるな」
「出た大人のジョーク!かんべんしてください」

仕切られたカーテンに顔と片手を突っ込んだローの言葉尻には愉悦のようなものが感じられ、かたやなまえはすっかり泣きベソをかいているらしい。
そんな二人を遠目に見守るのは山本と飯島である。

「なまえさん結構ねばってるなー」
「アイツ地味だけどスタッフとして出していいのかよ」
「全然大丈夫。それに彼女影でけっこう人気あるし」
「へえ……お、出てきたぞ」

ローに手を引かれ俯きながら現れたなまえ。
――ざわり。裏方にいたメンバーは目を見張り、そんな中、同じく驚いた表情で飯島は呟いた。

「………捕えられた海賊、か?」
「そんなタイトルじゃないよ!もう!」

なまえが身につけたのはストライプのハイウェストドレスと、金のボタンが付いた赤いベスト。
それに黒ブーツとウェストサッシュ、赤のバンダナが加われば立派な"海賊"の出来あがりである。

海賊の前に『捕えられた』なんて物騒なものがついたのは、ローさんのコスチュームが(あろうことか)"看守"だったからに違いない。
彼曰く「たまには捕まえる側もいいだろ」らしい。

看守帽に真っ白なワイシャツ。ゆるんだネクタイは相変わらずだ。そして腰には鍵の束とホルスターに収められた銃が備えられている。

「二人とも、すごく似合ってる」
「当前だ」

眉をしかめて見せるローさんが割り増しに怖いのは、たぶん腰にぶら下がってるソレの所為だ。

「で?具体的に俺は何をして、何を言えばいい」ローさんの問いはに山本君はほがらかに答える。
「テキトーにおだててくれればOK」
「おだてるだと?」
「ローさん絶対無理だ。ぶきゃ!出来ますよねハイ!すいまへん!ほっぺいたいれふ!」
「何故俺がガキを悦ばせてやらなきゃならねえ。できるか」
「やっぱできないじゃん!なぜほっぺをひっぱるのか!」
「二人とも、どうぞうちの収入の為に働いてください」
「俺達にも報酬はあるのか」
「それはもう」
「行くぞ」
「決断早っ」
「金が絡んでるなら全力で行く。山本屋」
「頼りにしてます」

フンと鼻を鳴らしたローさんは、私の腕を掴んだまま教室の戸を開け、どこかやる気に満ちた一歩を踏み出したのであった。
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