「なまえ」

名前を呼ばれてハッとした。

「な、何でもないです」

うっかりした。こんな事絶対にローさんに知られてはいけない。
ローさんを無事この世界から送り出すことが、私のできる唯一のことなんだから。

「当ててやろうか」
「、え」
「お前は俺に、ここに残っていて欲しいと思ってる」
「!」

私は、ややしてコクリと頷いた。嘘をついてもどうせすぐバレる。

「お前のそういう正直なとこ、俺は大層気に入ってる」
「どうも」
「…疎いとこもな」
「?」
「まァいい。だが、なまえ、分かるな?」

もう一度、私はこくりと頷いた。

「俺には仲間が待ってる。冒険がある。叶えてェ夢も、置いてきた」
「大丈夫。分かってます」

浮かべた笑顔も嘘じゃない。

「ローさんを引き止めることはしません。全力で、帰れるようお手伝いします。だから――」


突然いなくなるのは止めてください。
さようならくらいは、言ってから行ってください。
それだけで、満足しますから。

ローさんはじっと私を見下ろしたあと、珍しく優しげな手つきで頭を撫でてくれた。
「約束する」
その言葉に、意外なほどほっとした。


「さ!夜ごはんにしましょう」
「…今日は?」
「ビーフカレーです」
「人肉?」
「ビーフですったら!怖いよ!」

この出来事を「いい夢だった」で収めるために、もうしばらく、ローさんとの生活を楽しもうと私は思ったのだった。
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