どれくらい寝ていたのだろう。目が覚めた時、隣にローさんの姿はなかった。
「……ロー、さん?」
窓から差し込む夕焼け色。それに照らされる白い壁をしばらく眺めていると、途端に不安が込み上げてきた。ベットから抜けて、部屋を出る。
(もしかしたら…)
ローさんは元いた世界に戻ってしまったのかもしれない。
パタパタと階段を駆け下りてリビングを覗く。――静かだ。脱衣場を抜けてお風呂場も見てみた。やっぱりいない。
「ローさん」
呟くように名前を呼んでみる。もちろん返事は帰って来ない。なまえはソファに腰を下ろした。
それと同時に、玄関から戸を開ける音がする。
「、!」
弾かれたように立ち上がり、なまえはリビングの戸を開けた。
そこには、きょとんとこちらを見て玄関に立つローさんがいた。私の姿を訝しげに見て、訪ねる。
「どうした。お前真っ青だぞ」
「…ロー、さん」
その姿を見て、私は思いっきり溜息をつく。力が抜けてその場に座り込んだ。
なんだ…なんだ、なんだ……
「帰っちゃった、かと…思った」
うっかり零してしまった台詞に驚いたのはなまえ自身だ。そろそろ、っと視線を上げるとローさんと目があった。
1秒
2秒
3秒
―――にやっ
「…へえ、俺がいなくて寂しくなったのか」
どうやら彼のSツボを突いてしまったらしい。つくづくついてない。
そう思うのに、心のどこかで確かにほっと安堵した自分がいることを、なまえは知っているのだった。
「散歩してただけなんだがなァ。そうか。俺がいなくて泣くほど寂しかったか」
「泣いてませんけど」
「素晴らしき調教の成果だ」
「されてませんけど!」
「…ご所望なら喜んで」
「いりません!」
ほっぺたをおもいきり膨らませた私の後ろで、ローさんはきっと今もニヤけていることだろう。
私は唇を尖らせた。
「少し、心配になっただけです」
今日思い知った。ローさんはもうすでに他人なんかじゃなくて、私の中で限りなく大きな人になってる。
ただ数日一緒に過ごしただけ
ただ他愛のない言葉を交わしただけ
何をしたわけじゃなくても、そんな「ただ」が久しぶり過ぎて、大事すぎて、いつしかすっかり手放し難くなっていたのだ。