ざわざわ、がやがや。そんな騒音達の中で確かに私の耳に届く擬音(幻聴)はこうだ。

「イライラ」
「…ろ、ローさーん、イライラがお口に出てますよ…」
「行動に出てねぇだけ有難く思え」
「ごもっとも!」

「ハイ皆さん聞いてくださーい。我がクラスの出し物は何が良いですか?と言いたいところですけど時間も労力も無いので僕ら学級委員が勝手に儲かりそうなものを決めてきました」

眼鏡をくいと上げるのは、テキトー委員長こと山本君だ。

「僕ら3組は平均的に美形レベルが高いと評判なので、まあ長所を利用して『コスプレ喫茶』を決行しようと思います」

山本委員長から言葉を継いだのは、毒舌副委員長の飯島君。

「と言う事で、山岡、佐竹、森田、栗原、無州寺は裏方に回ってください」
失礼だろ!バカヤロー!そんなシャウトが(主に名を上げられた彼らから)飛び交う中も、とんとんと話は進む。

「実はもうさっそく衣装を取り寄せてあるそうなので、気に入ったの取って試着してみてくださーい」

「あ、ちょ、ローさん!」
「帰る」
「なぜっ」
「こんなお遊戯会に付き合ってられっか」

「それは困るな。君には3組のレギュラーを担ってもらうんだから!」
「俺に命令するな」
「じゃあ、面倒臭がらず参加してください」
「仕方ねぇな」
「お願いならいいんだ!?」

とにもかくにもやる気0委員長のおかげでローさんは参加する気になってくれたようだった。
その五分後。
黄色い歓声が上がる。
クラスの女子の騒ぎ声をかき分けて、彼は真っ直ぐ私の方へ向かってきた。

「どうかな、なまえサン。俺ってイケてるだろ?」
「…あ…うん、格好いいよ」
「これホストなんだけどさ、俺って金髪だからもうピッタリで「オイ」

先程の数倍はある(何故か他のクラスの女子込み)反対側の歓声の中からようやく抜け出してきた様子のローさんは、私の方に回る池山君の腕を払った。

「…うわ、ローさん何ですかそれ」
「医者だ」
「お医者さんか...」
「なんだ。」
「や、物騒だなってあいたたたた!!」

しかし黒ネクタイに白衣が恐ろしく似合っている。
化けるなら学生より保健医とかにしとけばよかったのに…と本気でそう思った。

「…お、お前も中々イケメンだな。まあ俺ほどじゃ」
「おいなまえ。いつ終わんだ」
「今さっき来たばっかりじゃないですか!」
「まさか今日一日こんなことしてるわけじゃねェだろうな」
「…あは」
「帰る」
「やー!待って下さいローさん!明後日学園祭で、今日と明日の二日間で催しの準備をする決まりなんですって」
「まだ授業とやらやってた方がマシだ」

ローさんは帰ろうとするし、相手にされていない池田君はしょんぼりと肩を落として去っていくし。何なんだ一体。

ーーーーーー

学園祭の準備も順調に進んでいく中、密かに不穏な気配を見せる者にローは気が付いていた。何とははっきり分からなくとも、その企むような瞳をローは感覚で覚えている。(…へえ、面白いな)

世界は違えど腹に一物抱える者が存在することは、何処へ行っても変わらないらしい。

「ローさん」

自分を呼び掛ける声に意識を戻す。

「あ?」
「どうかしましたか…?目がギラギラしてる気がするんですけど」
「気にすんな」
「そう言われましても」

なまえは口をもごもご動かしてそう述べる。
俺が何か問題を起こすとでも思っているらしい。まったく、こんな小娘に心配されるようになるとは…。
1週間前の俺も想像だにしていなかったはずだ。

そう考えると溜息が落ちるが、過ぎた事を言っても仕方ねぇ。今考えるべきことは俺がアチラへ帰る方法、それから…

「お前が俺の近くにいる限りは悪さはしない」

なまえの頭に片手を乗せて言ってやると「おトイレの時はどうすればいいんですか!」とアホな返答が返ってきた。
こいつを前にしていると気が抜ける。ローは先程の気配に目を向けて、にやりと口端を上げた。

(そうだな…それから、)

今の瞬間に"ただの悪意"が"ただの殺意"に変わった、その理由だ。
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