身体中を駆け抜けた悪寒に鳥肌が立ち、わたしはバッと振り返った。そこには釈然と闇が広がるばかりで、存在するものは何もなかった。それでも恐怖ばかりが身を支配し、家へと向かう足を速めた。

たったったった

たったったった
「っ………!」
確かに後ろに気配を感じる。立ち止まるなんて、出来ない。ただひたすらに前に進んで、走って走って、不意に手を掴まれた。





「―――い、やぁあああ!」
「なまえ」
「やだ、やだ離しッて」
「おい!」
「来ないで、いや、いッ」

「なまえ」

「!」ぱちりと目を開くと、直ぐ近くに誰かがいた。そのひとは静かな声でもう一度、囁くように私の名前を呼ぶ。
それがようやく、ローさんだと気付いた。
肩で息をする私の傍に膝をついてこちらを伺っているのがわかる。

「ロー、さん…?」
「ああ」
「…」
「大丈夫か」
「…うん」

嘘だ。本当は全然大丈夫じゃない。

「…あかり」
「ああ」

ローさんは手を伸ばしてドアの横のスイッチを押した。明かりが付いてローさんの顔が良く見える。
心配そうな、顔だった。

「…怖い夢をみたんです」

まだ微かに震えている手をぐっと握るとそれはローさんにゆるく解かれた。
かわりに冷たい自分の手で、わたしの両手を優しく包む。

「水でも持って来てやろうか」
「いい」
「?」
「ここに、いてください」

怖かった、怖かった怖かったこわかった。

あの日が蘇ったような空間。ローさんが起こしてくれなかったらと思うと、恐ろしくて震えが止まらない。


「なまえ」

お前が怖くなくなるように、俺が話をしてやろう。
なに大したもんじゃねぇ

「とある偉大な、海の話だ」
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