私がここで恐ろしいと思ったのは"謎の転校生"という肩書で今現在わたしの隣に優々と腰かけているトラファルガー・ロー君の絶大な人気だ。
この学校に現れてからものの十数分で彼の噂は全校に広まり、休み時間の度に見物人が教室の前後の扉にひしめき合った。
なんで?こんなに危ない人っぽいオーラ出まくってんのに。何で!
「失礼なこと考えてる顔だ」
「何故バレた!…あ」
「バカが」
「アウッ」
強烈なデコピンをお見舞いされた。


「トラファルガーくん!どこの学校から来たの?」
「ローくんって呼んでいい?」
「前の学校で彼女とかいたぁ?」
「よければうちらが学校案内してあげるよ?」

私がドキッと来たのは最後の彼女の台詞、あわわわ…ローさんにそんな上から目線って怖いもの知らずだな!いやいや他の子たちも負けてなけど!
私にはローさんの不機嫌パラメーターが急上昇していく様子がありありと想像できて身震いした。怖いよう…そのとばっちりを後で誰が受けるのか考えてほしい。


キーンコーンカーン…
とここで調度良くチャイムが鳴り、午前中最後の授業が始まる。数学だ。

「…なまえ、俺は今猛烈に不機嫌だ」
「(ほらぁあああ)…どうぞこんなものですがお召しになってくださいませ!私のお昼ですけどっ」
「昼飯…これがか」
「お弁当朝バタバタしてて作れなかったんです」

泣く泣く差し出して今や彼の手ひらの上にあるキットカット。ローさんはそれをしげしげと眺めると封を切り、中身を取り出してパキリと割った。え。
「仕方ねェから分けてやろうと思ってな。」
2分の1サイズになったキットカットを口に放り込んだローさんは相変わらず上目線だ。私も同じようにそれを口に放れば、疲れた思考に程よい甘さが広がった。


ローさんの方を向けば、黒板には目も向けずにぼんやり真っ白いノートを見つめている。くるり、指先は器用にシャーペンを回した。

「…」

ローさんは海賊団の船長らしい。そして"死のげかい"なんて言う物騒な通り名を持つお医者さんでもある。
(真実か嘘か分からない時は、真実だと思え。
元来素直な母と父の受け売りである。)



困難の募る航海だったんだろうから、きっと仲間もいたはずだ。


(寂しい、だろうな)

表情には出さないけど、それなりに寂しいだろうし、不安だろうし焦ってもいるはずだ。私だったら泣いちゃいそうな現状に違いない。
早くどうにかしてあげなきゃ。ローさんがもと居た世界に帰れるように私も出来る限りの事をしよう。小さくそう誓って隣を見ると、ノートと見つめ合っていたローさんが不意に口を開いた。

「この白、ベポみてェだ」
「…」

ベポとはローさんの船に乗った白熊だったか…。
焦りは、感じていないらしい。

**



チャイムが鳴り響いたのと同時にローさんは私の腕をひっつかんで教室を抜け出した。女子諸君の不服そうな声が追いかけてきたのが嫌でも聞こえる。彼の存在はもはやトラブルと等しかった。

「ロ、ローさん…どこへ」
「あんな魔窟に居座っていられるか」
「魔窟って…」

今はお昼時だ。購買も廊下もそこら中に生徒がのさばっている。うっかりローさんの舌打ちが聞こえてきそうだ。チッ!…あ。聞こえた。


「帰るか」
「いやいやいやいや!!てか顔怖い!視線で人殺せそうですよ」
「お前嫌いな奴いるだろ?言ってみろ」
「だめェエ!!暇つぶしに人殺ししますって魂胆が見え見えですから!前科者になりますから!」
「嫌いな奴なら構わねェよ」
「めちゃくちゃ構うよ!」

今更ながらローさんが危険人物であることを思い出した。
こんなことなら家でじっとしててくれればいいのに…!その考えは読み取られたようで、ローさんには鼻で笑われた。

「暇つぶしが無いと解剖したくなる性分なんだが、それでも俺をあそこへ放置するか?」
「いたしません!」

できることなら私の監視下にいて頂きたい。でも本当は監視なんてしたくない。むしろされてる気がする!
気の所為だと思いたいのに思えない17歳後半ある春の日の話。
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