――シャッ、シャ、シャ………チッ
丸をつける音に続いたローさんの舌打ち。永遠のようにさえ感じた時間はどうやら終わったらしい。

「…全問正解だ」
「いやったあああ!」
「恥じらっている様を思う存分弄んでやろうと思ってたんだがな」
「そうと解かっていたから、丸付けの最中全身から嫌な汗が噴き出して止まりませんでした」

何年分かの労力をまとめて使い果たした気分で机に突っ伏した私に降ってきたのは、やわらかな笑い声と手のひらだ。
教科書を丸めて肩たたきにしているローさんのその悪ぶった顔つきと、相反した優しい声色が忘れられない。

「気付いてたか?」
「――気付いて…って、一体何に」
「お前の問いたソレ、予習の更に応用だ」
「!!」

教え上手なローさんにしてやられたのは悔しいが、苦手な数学の思わぬレベルアップは素直に喜ばしい。
お礼に外食を、というのは、うちの経済面を総無視したロー様からの提案である。
断れたかどうかなんて言うまでもない。



かくして、私達は昨日同様街に出た。

「…どこか入りたいお店あります?」
ローさんが指さしたのはこの町一番のランジェリーショッ、ってあぎゃー!
「な、なな」
「安心しろ。お前にぴったりの身繕ってやる」
「ケッコーです!」
「その色気のねェ胸引き立たせてやるってのに…」
「余計なお世話だようわーん」

はたと視線を感じて辺りを見回す私の頭をぐるりと半回転させてローさん。痛いです死にます!
「気にすんな」
「え」
「こういうのには慣れてる」

(こういうの…。)
ちょっと考えればすぐにそれへ行き当たった。視線の主は、花も恥じらうお年頃の女性ばかり。
そうだローさんは美人さんなのだった
「…」
何だか急に隣を歩くのが恥ずかしくなり、一歩と9ミリほど離れると速攻でバレてわざとらしく恋人繋ぎをされた。私はこれが嫌がらせの序の口だと思うと、これからの毎日に不安を抱かずにはいられない。
ちくしょう、ときめくなわたしの純情ハート!


**


レストランでメニューを注文して(私はカルボナーラとサラダ、ローさんは魚介のフリットとマリナーラを頼んだ)待っている間に、私は今後に関してそっと口を開いた。

「ローさんが、私の家に長く居座る…あ、いえ、身を置かれるというのならですね!…避けては通れない問題が」
「あ?そんなもんどうにかなるだろ」
「まだ聞いてもいないのにっ」
「言ってみろ」
「果てしなき上目線!……学校です。ハイスクール」
「…ガッコウ?」
「私たち学生はその学校に行って授業を受けたりしなければいけないのですが…それが、朝から夕方までで」
「へえ、暗にお前は俺が留守番もできねぇカス野郎だと」
「いえいえいえ!滅相もないっす!ほんとに!私が心配してるのは」

そこじゃないんですって
私はですね

「ローさんを暇にすると、どんな恐ろしいことになるか理解してるので…」

思い出すのは昨日の昼。あの程度の"ヒマ"で人間を解剖したがる方を一人残すなんて恐ろしすぎる!帰ってきたら家がパトカーに包囲されてたなんてことになったら笑えないのだ。非常に。

「安心しろ」
「へ?」
「俺も大人だ。お前に迷惑のかかるような事はしねぇ」

そう言ったローさんの目は静かで落ちついていたから少しだけ安心した。警察沙汰になるようなことは、しないでくれるらしい。よかった。ほんとに

「暇つぶしの方法ならさっき少し考えた」
「それは人害は…」
「全くねぇ」
「そうですかぁ、よかった…!でも一体どんな暇つぶしで」

内容を聞こうと思ったら、丁度料理が運ばれてきたので会話はそこで途切れた。
そしてそれはぶり返される事もなく、私とローさんは他愛の無い会話を交わしながらゆったりとしたお昼時を過ごしたのだった。
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