先程第一問から『うっかり』間違えてしまった私を死ぬほど罵倒したローさんは、私のベットを我が物顔で占領して雑誌をめくっている。


「ローさん……あなたの世界にも数学があったんですね」
「似たようなのは在ったな」
「なら…その、教えてくれませんかコレ」

「そうしてやらないことも無い、が…俺の得意分野は別だからな」
「べつ?」
「アレはねぇのか…ほら、内臓だとか循環器官だとか切ったり裂いたりするやつ」
「説明が怖くてほんとうに嫌です」
「もしくは」

ローさんはつまらなそうに付け加えた。ニヤリ、数秒遅れて付随した笑み。

「保健体育とかな」
「あの、できればでいいんですけど、切実に退室願いたいです」
「大人の冗談だ。軽く流せ」
「(冗談に聞こえてたら私だって流すのに!)」

ローさんの曰く"オトナの冗談"はかなりの確率で醸し出されるので要注意だ。メモした紙は、数秒と立たず紙吹雪にされてしまったのだけど。

「こっちの医学はどの程度まで進んでる。科学的に、結構なもんだと思うが」
「い…医学ですか」
「そうだ」
「うーん…そうですね、日々進歩してるって保健の教科書には書いてありましたけど。…どうだろうか」
「殺すぞ」
「無知ですいません!」
「新聞でも読んどけ」
「はい。………でも何で医療?ローさん、医学に興味があるんですか?」
私の質問にローさんは面倒臭そうに答えた。
「俺は医者だ」
「…」

えええ!!ローさんってお医者様だったんですか!半ば叫ぶように言うと睨まれた。


「悪いか」
「いえいえ滅相もないです!ただ、意外だなあと思って…」
「意外?」
「てっきりもう何百人も殺してる方なのかと」

冗談めかして笑いながら言ったのに、ローさんからの反論はなかなか聞こえない。あれー?へんだな!
「俺の本職は知ってるな」
今更ながらの質問に嫌な予感を滾らせつつも答える。

「…か、海賊さんです」
「そうだ。じゃあついでに、俺の二つ名も教えてやる」

ローさんはあたしの苦手な笑みを称えながら、そっと耳元に顔を寄せた。


死の外科医、だ

「……」


ローさん恐怖症は当分治りそうにない。





俺が勉強を教えてやるからには、覚悟を決めろよ。え、何ですかその笑み怖い。フ…もちろん、解かってんだろうな

「一問間違えたら、一枚剥ぐ」
「よし宿題おわりー今日のお昼ごはんは何にしようかなー」
「まあ座れ」
「ドギャフッ」

がっしりと頭を握られて無理やり勉強机と向き合わされた。受験の時だってこんなに机が怖いとは思わなかったのに。

「それじゃあ、まずはこの問1から」
嬉々としてページを指差すローさんに向かって取りあえず両手を突き出した。

「た、タタタンマ!」
「あ?」
「私に少しだけ準備タイムを!」

言うが早いが転がるように椅子から下りてタンスに突っ込んだ。着込もう!今なんて長袖の薄手のシャツ一枚着てるだけ。一問でも間違ったら即剥かれる!このひとに限って冗談なんてことはあり得ないのだから!しかしカーディガンを手にした所で、不自然な現象がこの身に起こった。


「シャンブルズ」

「―――え、…ええ!?な、な」
先程離れたはずの机を前にして呆然とする私に、しかとシャーペンを握らせるローさん。加虐的な笑みを口元に湛えて、さて、と目を細めた。

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