「ヴォルデモートさんのあほんだらっ!」

そう言ってお屋敷を飛び出したのはかれこれ30分前。現在地はホグワーツ。もちろんここまでは姿くらましできました。最近覚えたてなので今めっちゃ気分いいです。余談だけども、昨日は調子に乗って台所からヴォルデモートさんの部屋に姿現しして烈火のごとくお叱りを受けました。ファッキン。

「ううん。ここまで来たのは良いものの……この先どうしようかな」
「こんな所で何をしておいでですか?なまえ様」

振り向けば額に青筋を浮かべたルシウスが、腰に手をあて仁王立ちになっている。


「ああいやなんかほら、み、道に迷って……人生という名の」
「ほう」
「いっけね!おやつの時間だ」
「でしたら真っ直ぐ。寄り道などせずに屋敷へお戻りください」
「誰が戻るかデコっぱち!!」
「で……っ」

ふらりとショックを受けるルシウスを通り越して門をくぐり抜けた。あれ、超あっさりなんだけど何これこれでいいの!?え?まじかよ、キャッホイ!

「これからあたしは親世代のかわいこちゃん達と遊ぶんだぁ!!うふふ、リリーとか本ものまじ天使並にかわいいんだろうなあ…、シリウスはきっとイケメンでジェームズとかルーピンあたりは原作通りなかんじかな!ピーターはきっと子世代のネビル的立ち回りなのかも!うひー、はやく会いた」ドスンッ





「……、っ絶対尻割れた」
「でかい寝言だと思えば、最終的にはこの様か」
「ぐへぇっ!き、ききき卿!?」

目を白黒させながらあたりを見回せば、そこは見慣れた自室。では……では、あのホグワーツへの旅は夢だったとでもいうのか、?!うそやだ超ショックなんですけど。

「昼寝してばかりだという豚の鼻をつまみに来てやったのだ」
「失礼すぎる!」
「それにしても、この俺様にあほんだらとはよく言ったものだな」
「あほん……?え、まさか私寝言でそんな事を」
「でこっぱちとも言っていた」
「どひー!」

寝てる時の私めええ、なんてとんでもない爪痕残していきやがる…!夢だったら夢らしく私の中でよき思い出としてインプットされていればいいものを……。
「とっ、時にヴォルデモートさん」
「何だ」
「私ホグワーツに入りた「却下」はやーい」
「あんなイカれたジジイのいるところになんぞ誰が行かせるか」

そう言うとヴォルデモートさんはマントを翻して部屋を出ていってしまった。

「……まあ、こちらは闇陣営だし当たり前かぁ」


そう。自他ともに認める平凡な人生を歩んできた私が、何故こんなところにいるのか。
理由は簡単。
私はなんらかの拍子に、ハリー・ポッターの世界に飛ばされてしまったのだ。ーーおいそこ、頭おかしくなったんとちゃうわ。ちゃんと聞きなさい。


ともかく、監禁されているわけでもなくブラブラすることすら許されているのは単に彼、闇の帝王の気紛れに他ならない。
これでもトリップ当時の扱いは酷いもんだったのだ。以下回想。


「え、こ……ここどこ暗!!そして雰囲気ひたすら禍々し、ってぎゃああ!ちょっなに何々赤い閃光とかまじ止めて危ない」
「貴様どこから入り込んだ死ね」
「は、はは入り込んだ!?知らないよ私今日は家でずっとスマブラやってうぎゃっふ!今度は緑!!」


そうそう。私ってば会議の途中に部屋の真上に突然現れたんだよね。で、落ちたんだよね。あの時も尻をしこたまぶつけた。
今思えばヴォルデモートさんに何度殺されかけた事か。緑の閃光でドンパチとか危ないから本当に勘弁してほしい。

「まあ、何故だか今は闇の帝王直々に魔法教えてもらっちゃってるんだよね……うん、何故だか」

向こうでは魔法なんて使ったことなかったのに。(これもトリップ特典のうちだろうか。)

私はぼふんとベットに飛び乗って窓の外を覗いた。
ああ、今日はいい天気だから、根暗な卿とルッシーでも連れてピクニックでもしようかな、なんて、意外と快適に暮らしてるでしょ。わたし。


春香る、夢
(ホグワーツにだって絶対そのうち行ってやるんだから)
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