「何のために生まれてぇ〜何のためにいきるのかぁ〜」
「止めろ。耳障りだ」
「えっ、耳障りって、私の美しいソプラノが聞けたもんじゃないって言うの!?」
「雑音の間違いだろう」
「DX!言葉のドメスティック・ヴァイオレンス!」


ピルルルル…

「……ん?何の音ですか?」
「貴様の鞄からじゃないのか」
「貴様って!」

私はソファから飛び降りて、部屋の片隅に放置しておいた鞄に走り寄った。部屋の中なのに『走り寄った』なんて表現が使えちゃう辺り、卿の屋敷のバカでかさがうかがえるでしょ。

「そう言えばこっち来てからずっと放置だったっけ」

開ければペンケースと、恐らくその日のお昼に食べたパンの袋とケータイのみが入った恐ろしく軽い鞄だったということが判明した。
教科書の類が入ってないのはOKIBENという技を使ったからである。


「…な、鳴ってる」
「何がだ」
「ケータイ……」

チカチカ点滅しながら音を発しているブツを手にして、恐る恐る通話ボタンを押した。

「も、もしもし」
『ワオ、生きてたんだ』

なんちゅー第一声。この声は間違いない…。

「き、恭弥?」
『そうだよ』
「そうなんだ……恭弥かあ。うん……何で!?」

並盛中学風紀委員長である雲雀恭弥くんとは割と仲良しだ。何故って?私が風紀委員に所属していて雲雀君にこき使われたりしていたからだ。一年のころからずーーっとね!あ、いやいや問題点はそこじゃない。

どうしてこっちの世界とあっちの世界が携帯ひとつで繋がっているのか!


「ちょ、ヴォルデモートさん!あり得ない事が今」
「大体状況は読めた」
「さすがか!」
『君今一体どこに居るんだい?家に行っても帰ってきてないし、家賃払ってないし、風紀の仕事も溜まってるしで咬み殺したいんだけど』
「いや怖いよ!鬼のような顔が目に浮かぶようだよ!」
『家賃は僕が払っておいてあげたけど』
「神様」
『1日過ぎるごとに利子8倍ね』
「鬼!悪魔!デーモン!サタン!」
「なまえ、貸してみろ」
「ぅえ?」

いきなり携帯をかすめ取られたかと思うと、卿はじっとそれを見つめて私と同じように耳にあてた。
そしてゆったりとした口調で言葉を紡ぐ。

「誰だ、貴様」

単刀直入キタ―――!
てか貴様って!あの風紀委員長に貴様ってアンタ!


『――――――そっちこそ。なまえはどうしたの』
「あの阿保なら無事だ」
『じゃあ出しなよ』
「お前のような小童がこの俺様に命令出来ると思うな」
『咬み殺すよ』

ちょっとちょっと恭弥くーん!闇の帝王に咬み殺すって!なんてチャレンジャーなんだ!卿は卿で無表情だし!

「と、取りあえず貸して!」
「あ」
「もしもし恭弥?ごめんね今色々あってそっちに帰れないんだわ。だから仕事は草壁さんに任して学校には海外行きましたって言って家賃は暫く恭弥が払っといて!」
『ふざけないでくれない?』
「ごめんごめんご!また電話するよっ、バハハーイ!」
「ちょ」

プツン。あーーやっちまっただーやっちまっただー。もし何かの影響でポーンと元の世界に戻れちゃった暁には咬み殺される……!
あわあわと焦っていると、ヴォルデモートさんがソファに腰かけながら私に訪ねてきた。

「話して聞かせろ」
「え?」
「お前のいた世界とは、どんな場所だ」
「……私のいた世界?」
「ああ」
「うーん。平凡なとこでしたよ……。一部を覗いて」
「一部?」
「私の友達にはバイオレンスな方が多いんです。白昼堂々トンファーやら日本刀やら振り回してたりダイナマイトぶん投げてたり拳銃常備してたりして」
「……マグルの武器か」
「ナイフいっぱい隠し持ってる金髪やムチで戦う金髪もいましたし、でっかいフォークみたいな武器持ってるナッポーも居ました。要は、危険人物に囲まれてた訳です」
「だからこんな分けの解からん性格になるのか」
「これはもともとだよ!別に人格形成されてたりしませんからね」

全くもって私の話を聞こうとしないヴォルデモートさんに向かってしかし私は語りかけた。
(だってこの人が他人に興味持つなんて中々無いチャンスだもの)

「まあね、あたしはね、もう一種のマドンナ的な?マリリンモンロー的なカンジだったわけですよ。それでね」
「そろそろ夕飯か」
「最後まで聞いてくれてもいいんじゃないの!」
「煩いトロール」
「誰がトロール!?」

結局ヴォルデモートさんは自室を出て広間へ向かうまでの間、私の話を(マジで泣きたくなる程)テキトーに受け流してカケラも聞いてはくれなかった。

(何故か、楽しげに向こうの話をするあいつに腹が立った)
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