服の裾から滑りこんできた手の冷たさにバチッと目が覚める。

「ホギャー!!」
「チッ…色気のねぇ悲鳴出しやがって」
「き、きききっきき」
「キスか」
「ちげーよハゲ」

布団の中で暴れれば、そんな私の抵抗をうざったそうにあしらう赤髪の人相の悪い男。ユースタス・キャプテン・キッド。しょっちゅう新聞を賑わすその男であった。


「何でうちにいるの!?」
「配達が遅ェから受け取りに来た」
「遅いって今まだ夜中だろうが!」
「うるせェな」
「鶏だってまだ仕事したくないよこんな時間!」
「テメーは人間だから問題ないだろ」
「人間は睡眠を必要としてるんですけど?」


遅ればせまして自己紹介させていただきます。私、この島の牛乳配達のなまえ。暫く島に滞在するというキッド海賊団に牛乳をお届けに参上仕った1週間前が運の切れ目で、私は見事に目をつけられた。


「つーかユースタスさん牛乳そんな好きじゃないじゃん!」
「お前が毎日持ってくるから惚れたんだよ」
「まるで恋だね!」
「そうなるな。」
そうこう言いながらも私は迫る彼の胸元をギューギュー押し返している。

「離れてよ!牛乳なら冷蔵庫の中に敷き詰まってるから」
「何で敷き詰まった牛乳飲まなきゃなんねェんだよ」
「アンタの目的それでしょうが!!」
「…取りに行くのがめんどくせえ」
「ここまで来といて冷蔵庫までは遠いんですか」
「あァ遠いな。だからよ」

ニヤリ、
おっと。危ないぞこの顔は。

「お前の乳搾りに来グホッ」
「最低だ。」

最低過ぎて思わず殴っちゃったよ。
彼が怯んだすきに布団から這い出してパジャマを整える。脱がしかけられた。最低だ。

「…痛ェよ」
「セクハラしたのが悪いんでしょ」
「胸揉んだだけだ」
「眩暈がします」
「お前けっこうあるな」
「どうして赤くなるんですか止めてよ生々しいよ!!」
「夜中に騒ぐんじゃねェよ」
絶句。


私は冷蔵庫に向かい、中から牛乳を二本取り出すと一本を彼に渡した。

「それ飲んだら帰って下さいよ」
「くれんのかよ」
「後でまとめて請求します」
「がめつい野郎だ」
「海賊に言われたくないんですけど」

そりゃ尤もだな、とユースタスさんは気を悪くしたふうもなく笑った。
もう襲ってくる気は無いらしい。
私は電気をつけて枕元に腰を下ろした。


「…絶対飲む必要ないでしょ」
「あ?」
「そんだけ大きいのに、まだ背がいりますか」

お互い座っていても私は見上げる形になるから、これは座高の問題だろう。

「でかけりゃ色々得だぜ」
「んー。まあ、間違いなく圧倒はされますね」
「テメェも腰抜かしてたな最初」
「そりゃね。民家だと思ってあけたら2m越えの海賊さんですもの」
「男はデカけりゃデカいだけいい」
「へえ。志とかですか」
流石海賊…そういう所はかっこいい。
「いや、アレとか」
彼の視線が下に向いたのでとりあえず枕を投げつけてやった。うん、前言撤回。最悪っす。

「馬鹿野郎!零れんだろうが」
「セクハラ撲滅」
そう言いつつ思いっきり牛乳瓶を煽ったら、そこをユースタスさんが指先で弾いた。当然中身は顔面にぶっかかる。

「げほっ、ふ……はだにはいっだ…」
「…」
「っっ何すんですかコンチクショウ!!」
「………」

ことり。
飲みかけの牛乳瓶がベッド脇のテーブルに置かれる。

「????」
「なまえ」
「え?え……何ですかユースタスさん」
「勃った」
「は。」
肩に置かれた腕。後退していく景色を尻目に、私はユースタスさんがことさら真顔なのがもうかつてないほどの恐怖だった。

「テメェの所為だ。相手しろ」
「、さ!!!」

さいていだ!!!
1282821hit キッドでギャグ
たまには変態キッドもいいと思います
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