『もしもし。』
「あ、もしもしロー?」
『何だなまえか。』
「ねー!今からキッドんち来ない??」
『鍋なら行く』
「鍋じゃねーよ!!ドライブ!」
『ドライブ…?』
「そー!キッドが車の免許取ったからさ〜。ほら!ようやくあたし等が3ケツトリオを脱したということで!お祝い!」
『悪いな。大学の課題がまだ途中だから止めとく』
「え?」
『じゃあな。』
「ちょ、ロー!?」
――ブツッ
「…切れちゃった。」
「何だよ来ねェのか。せっかく俺の運転ぶりを見せつけてやろうと思ったのに」
「ま、今度でいーじゃん。それより早くいこー!」
「おう。」



というやりとりから十分。
私は今猛烈に


「ぎゃーーーーーー!!!」


十分前の自分を殴って正気を取り戻させてやりたい気分であった。



デス・ドライブ



「ぎゃーーー!ぎゃーーー!ぎゃーーー!」

「おい!っせェぞなまえ!!」

「ぎゃーーー!」

「助手席で喚くんじゃねェよ!」

「キッドォォォおおおおろしてぇぇええッ」

「何だもうヘバったのかよ。本番はこれからだぜ」

簡単に言わせていただくと、下手な絶叫マシーンよりはるかに絶叫マシーン。
ローが関わり合いになりたくないとばかりに電話を切った理由が何となく掴めてきた。

奴は恐らく、キッドのこの運転を予期していたのだろう。
(あの裏切り者め…。一言言ってくれればあたしだって…)

こうして思考を巡らせている間も、キッドのハンドルさばきは落ち着きを見せない。
しかし当の本人はニヤニヤと心から楽しそうに運転しているから困りものである。


「ね、ねえ…バカ。じゃないキッド…聞いてもいい?」
「あ゛ァ?」
「何でこの車オープンカーなの?」
「うちにコレしかなかった。」
「空気抵抗半端じゃないんだけど!」
「ハハハ」
「面白くないわ!!!」

調子こいてオープンカーなんぞに私を乗せたバカキッド。
私は既にぐったりしながら視線を前に向ける。

「(あ…信号……やっと止まれる)
って無視ィィィィ!!!??」

信号は間違いなく青、黄、と移動していたのに、このバカタレはそれをシカトして直進しやがった。
Gに圧迫された体や心が、もう帰してくれと私に切に訴えかける。


「なんっなん、なんて愚かな真似をォォォ!!」
「あ?信号無視くらいいつもしてんだろうが」
「チャリンコとは違うんじゃボケー!」
「『青・進め。黄色・進め。赤・気をつけて進め。』は俺達の専売特許だったじゃねェか」
「初めて聞いたわ!…ハッ!だからか!お前らと帰る時やったら早く家についたの!」
「俺達が影で何と呼ばれてたか知ってるか?」
「…?」
「"新星のノンストップ・トリオ"だ。」
「それつまり信号無視常習犯ってことじゃんか!まじバカ!何で喜んでるのバカ!」


こいつほんとに免許取ったの!?という疑問は心の中に幾度となく浮かんでいる。
教習所に言っていない私でさえもっとマシな運転ができそうなものだ。


「つ、つーかさ!!ふつう初心者って、もっとこう慎重に慎重に運転するもんじゃないの!!?」
「あ?何だそれ」
「さっきからちょくちょく車線はみ出してるしさぁ!!もう怖いです!降りたい!」
「なまえ。」

突然キッドが真面目な声を出すから、私もつられて真面目な顔を上げる。


「俺に、その命預けてくれねェか」
「…!」
「必ずテメェを生きてここから帰してやる。俺が護る。俺の――…命に代えても…!」
「キ…キッド……ってなるかボケェ!!」
「チッ」
「命預けるとか縁起でもない!ほんと縁起でもない!」
「これで静かになると思ったんだがな」
「大体なんなの!?実は乗る前からずーーーーっと気になってたんだけどさ!なんで初心者シール貼って無いのこの車!!?」
「だせェから剥した。」
「ほら見ろバカだこいつ!だれかたすけてぇえええ!!!」



「?」
「ん?どうしたのキャプテン」
「………いや、何でもねェ」
「そう?」
「っつーか悪いっすね!キャプテンの家にしか鍋の道具無くて」
「気にすんな。俺も家から出なくて済んで良かった。」
「そう言えば、キャプテンとつるんでるあの二人は…今日は来ないの?」
「止せベポ。あいつらの話をするな。…まかり間違って家へ来たらどうする」
「喧嘩ですか」
「いいや。このマンションに車突っ込まれたら、お前らも困るだろ」
「「「??」」」

1230321hit 現パロキッドとドライブ
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