キッド宅。いつものようにゴロゴロ漫画を読むキッドの隣で、テレビ鑑賞に興じていれば、何やら黙りこくっていたローが急に立ち上がった。


「もうすぐ恋人たちの季節がやって来るな」
ローが唐突に頭のおかしい事を言うのは、今に始まった事じゃない。適当に流すのが幸である。

「あーね」
「お前ら知ってるか?巷じゃクリスマスを一人で過ごす人間を"クリボッチ"と蔑み嘲り罵る遊びが横行しているらしい」
「完全なる被害妄想だね」
「俺達は奴らのこんな愚行を許していいのか!クリスマス?あんな人に害をなすベインデーの何がいい!誰得だ!?」
「ちょ、もう煩ェ!今イイトコなんだよ!」
「馬鹿スタス屋め。お前悔しかったら彼女の一人や二人作ってみろ」
「あ゛ぁ?」
「そういやキッド、この間の子とどうなったの?」
「ああ、あいつな…」
「待てユースタス屋…何だそれ。こないだの子って誰だ…」
「なんかキッドにラブレター渡してた子いてさ。けっこう可愛かったと思うけど」
「聞いてねェ!」
「お前に言う義理ねェだろ」
「まあそれはいい。で?どうだったんだ?OKしたのか?したんだろテメェ」
「(煩ぇなぁ…)してねェよ」
「はあ?何でだよ」
「……足が気にくわなかった」

「「死ね」」

この際ローとハモってしまった事は置いておこう。キッドが美脚好きだという噂は聞いたことがないぞ。

「勘違いすんなよテメェ等。俺は、細すぎて嫌だったんだ」

「細い分にはいいじゃんか。やっぱキッドしね」
「…俺は分かる気がする」
「だろ。ちっと肉ついてた方がそそるんだよ」
「何それ。おなか減ってんじゃないの」
「動物じゃねぇんだよ」
「いや、野獣だ。つーか男は皆けだものだ」
「キッドあたしのピーチティとって」
「おう」
「聞けお前ら。なまえ、お前もいつか後悔するぞ」

私はピーチティをすすりながらローを見上げる。何やら熱くなっている彼。

「何の話?」
「男の部屋へホイホイ上がって」
「うお!」
「こんなことになったらどうする気だ?」

肩を押して私に馬乗りになったローは、数秒でキッドに蹴り飛ばされた。

「俺の部屋で盛ってんじゃねェぞ変態が」
「仮の話だろ」
「アンタらに襲われる心配とかないから大丈夫」
「そりゃ俺達が理性ある男だからだ」
「まあ…大学行ったらコレより飢えてるのわんさかいるって話だしな。気をつけろよなまえ」

コレ、とキッドに親指で指されたローは、特に気にしたふうもなくウンウンと頷いている。
「分かった。もしそんな時があったら、タマを踏み潰します」
「それでいい!」
「よくねェだろ。…ならねェよう心がけろバカ」
「はーい」

そしてキッドは漫画に。私はテレビに意識を戻す。
暫く黙って窓の外を眺めていたローは、再び立ち上がった。


「もうすぐ恋人たちの季節がやって来るな」

「話戻すなよ!」
「ヒマなんだよ」
「クリスマスなんざ来年も再来年も来るだろ」
「そう言って私達去年も一昨年も一緒に過ごしたよね?」
「多分今年もな」
「…なあお前ら。これはクリボッチというのか?どう思う」

私とキッドは顔を見合わせた。

「…言わねェよ」
「うん。…だってほら、3人だし」

ローはしばらく考えたふうに黙ると、大人しく私の隣に腰かけた。
読みかけらしき医学書を開いて「そうだな」と頷いた。

「じゃあいいか。」

ローは結局「クリボッチ」とくくられるのが嫌だっただけらしい。変な所にこだわるのは昔からである。

「今年どっかいく?」
「いかねェよ、寒ィ」
「ディズニー行くか」
「いやだよ。空しくなるだけじゃん」
「じゃあ例年通り誰かん家だな」
「キッドんちでいーじゃん」
「またかよ」
「了解」
「去年と一昨年はテメェらの要望聞いたんだ。今年のケーキは俺が決める」
「いいよ。じゃあショートケーキね」
「俺が決めるっつってんだろ!」
「馬鹿言え、モンブランだ」
「季節無視か!」

クリボッチ
1010000hit キッドとローとクリスマス計画
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