俺とキラーは昼飯を買う為に購買へ向かう際中、女子の集団とすれ違った。
その刹那、俺は直感して、振り返る。

「…まじか」
「どうしたキッド」
「すげぇ俺好み」
「!…まじか」


かほり


「ユースタス屋が一目惚れ?ハッ…冗談は頭だけにしろ」
「殺すぞトラファルガー」
「待てお前ら喧嘩をするな」

胸ぐらを掴み合ったキッドとローの仲介に入り、キラーは深く溜息を吐いた。

「キッド、お前はトラファルガーと喧嘩しに来たのか?」
「違ェ」
「違ぇのか。そりゃ悪かった、チューリップ屋」
「っっ………あいつのクラスが知りてぇ。教えろ」

キッドは怒りを押し殺すと、ローの机に両手をバン!と置いて尋ねた。訪ねると言うより脅迫に近いものがあったが、かくいうローはどこ吹く風だ。

「なぜ俺に聞く」
「女に詳しいだろ」
「俺を色魔扱いするのは止せ。まあ確かに色男ではあるが」
「なあキラー俺こいつ殺してぇ」
「落ち着け。…で、本当に知らないか?こっちは結構参ってるんだが」
「知らないか言われても、俺はまだ何の特徴も聞いてねぇんだが」
「特徴…なんだがな」

ここで言いにくそうに言葉尻を濁すキラーに、ローは首をかしげる。

「何だよ。相当ブスなのか?」
「顔知らねぇんだよ」
口をへの字に曲げながら返したキッドに、ローは純粋な疑問符を投げ返した。
「…は?」
「だから、後ろ姿しか見てねぇし、全員同じような髪型してたから区別つかなくてよ」
「ハァ?テメェ一目惚れっつったろ。顔覚えてねぇってどういうことだ!」
「……匂い」
「は?」

「だから、すげぇ俺の好みの匂いだったんだよ。」


「……キラー屋。俺はここでひくべきなのか?ドン引きしていいのか?」
「勘弁してくれ。こいつは至って真面目だ」
「聞こえてんだよテメェ等。死ぬか?」
「いやユースタス屋。匂いってお前…犬かよ」
「誰が犬だ。…ハァ」

ローの前の席の椅子を引き、腰を下ろしたキッドの顔はどことなく暗い。
ローとキラーは顔を見合わせ、仕方なく彼の恋の相手探しに付き合うことにしたのだった。


「とりあえず、どんな匂いだったか言ってみろ」
「命令すんな」
「キッド」
「……あれは香水とかじゃねェ。たぶん」
「じゃあシャンプーか?」
「さあ」
「洗剤?」
「知らねぇよ」
「……」
「…」
「……無理だろどう考えても!」
「やはりな。」
「役立たずが」
「むしろそんだけの条件で女探せって言ってくるお前らが理解できねぇ。それと死ねユースタス屋」


***


「あの、すいません。」
今にも殴り合いそうな二人を傍観していたキラーは一人の女子生徒の声によって自分が通路を塞いでいる事に気が付いた。

「ああ、悪い」
「いえ」

会釈しながら3人の間を通り抜ける女子生徒。
すると何の前触れもなく、キッドが小柄な彼女の腕を掴んだ。


「え!?」
「……こいつだ。」
「は…はい?」

俺達は数秒遅れて、キッドの言わんとしている事に気が付いた。
「ユースタス屋のお目当ての女がなまえ…だと?」
手を掴まれている彼女は、自分を睨みつけるように見つめているキッドに怯えて辺りをきょろきょろ見回し始めた。


「あ、あのー…」
「ちょっと悪ィ」
「え?あ、うひゃっ」

キッドは少女を力強く引き寄せると、彼女の首元に鼻を寄せた。
俺はギョッとして息を飲み、トラファルガーは「やるな」とニヤけながあ事の成り行きを見守っている。

「あの!!…あ、あの」
「黙ってろ」

まるで逃げられないようにと両手で腕をしっかり押さえ、首元から襟、胸元、腹のあたりまで、自分は座ったまま匂いを嗅いだキッドは、しっかり頷いて勝ち誇った顔を俺達に向けた。


「間違いねぇ。こいつだ!!」

再び顔を少女に向けたキッドがピシッと固まるのが、こちらからはよく分かった。
「…っ…」
分けも分からないまま初対面の男子に服の匂いを嗅ぎつくされた彼女の顔は、その行動に対しての羞恥か、それともキッドとの近すぎる距離に対しての羞恥かで、可愛そうな程真っ赤に染め上がっていた。

「あ、や、……悪ィ」
「……わ…私っ」

くさいんでしょうか…?
と今にも泣きそうに尋ねられ、キッドはしどろもどろに首を振った。


「い、家が…花屋で、どうしてもお花の匂いが……っすいません!」
「べっべつに!くさいなんて、言ってねぇ!」
「で…でもっ」
さっきまで散々声を殺して笑っていたトラファルガーが、助け船を送るが如く、キッドの思いを暴露した。

「なまえ、ユースタス屋は、お前の匂いに一目惚れしたらしいぞ」
「…え?」
「いや…一鼻惚れか。クククッ」
「トラファルガー!!!」
「ひ、ひとめっ……!」


最低逃げ出すだろうとも予測していた俺だったが、彼女は意外にもそうはせず、自分を捕まえたままのキッドを見つめて更に顔を赤くさせた。言葉を失っているようで口を開けたり閉じたりしていたが、やがて恥ずかしさからか黙り込んで俯いてしまった。

「あ…あのよ」キッドが恐る恐る尋ねる。

「…お前、彼氏いるか?」

「い、いません」

「…俺、怖ェ?」

「こっ」
バッと顔を上げた彼女。キッドと目を合せ、数秒、再び視線は落下してしまったが、何やら懸命に言葉を紡ごうとしているようだ。

「怖くは、ないけど……はずかしい」
消えていった言葉尻に嫌悪感は含まれていなそうだ。
キッドもそれを悟ったのだろう。いきなり彼女、なまえを抱きしめると、「ヤベェ、なんだこれ」と呟いて俺を見た。


「キラー。俺はこいつをモノにする」
「…俺じゃなくそいつに言うべきでは」
「それもそうだな。行くぞ、なまえ」
「えっえっえ……!!?」

湯気が出んばかりに赤くなったなまえの体を離しつつも、今度は手を握り立ち上がったキッド。
…キッド。俺は今お前の行動力を改めて尊敬してるぞ。


「そうだ、トラファルガー」
「?」
「手ェ出すなよ」


それだけ吐き捨てるように言うと、キッドはなまえを連れて颯爽とクラスを出て行った。何だこの急展開。
「……チッ、地味に狙ってたんだがな」
「…忠告しとくが、キッドのあの入れ込み具合は異常だぞ」
「人のもんに手出しゃしねェよ。…多分な」
「…」
「それにしてもユースタス屋の野郎……匂いとか。もはや獣の域だな」
「ああ…違いない。」

かほり
980000hit 学パロキッドの一目惚れ
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