ルームメイト達も出払い、しんと静まり返った部屋。昨日は夜更かしして読書に没頭したせいで瞼が重い。今一度毛布に潜り込もうかと思案した所で、僕、トム・マールヴォロ・リドルは異変に気が付いた。

「…」


部屋のカーテン越し、春先の柔らかい日差しに照らし出されたシルエットには、激しく見覚えがあった。
僕は近付いていき、カーテンをほんの少し開けて外を見た。


「グッモーニン!ミスター・リドル!」

シャッ

「ちょ、閉めないで!閉めないで下さいよ、リドル先輩!」

「煩い小バエだ」

「聞こえましたよー」

「何してるの、君。そんなところで」

「言いますから!とりあえずカーテンと窓開けて私を中へ招き入れてくださーい!!」

僕は仕方なくカーテンと窓を開けてやる。
すると、今まで窓枠にぶら下がっていたらしい彼女は、ぐんっと勢いをつけて室内に転がり込んできた。

「ハー!寒かった手痛かったいい加減落ちるかと思っちゃったよ」

「どうしてあんなところにいたの」

「リドル先輩を驚かせてやろうかと思って、先輩のルームメイトが部屋を出るのを見計らってたんですよ。外で箒に乗って」

「そこからどうしてあんな干されたスルメみたいな状況になるんだい」

「簡単に言うと箒から手離したら落ちちゃいました。で、しかたなくあそこに掴まったみたいな」

「つまるところ君はバカなんだね。」

「バカじゃないですよ、ただちょっと暇だったんです。」

「暇だから男子寮に忍び込むなんてバカとしか言いようがない。このバカ」

自分の気の済むまでなまえを罵ると、僕はベッドに潜り込んだ。

「寝るから話しかけないで」

「分かった。ところで先輩」

「死ね」

「どうして寝るんですか?こんなうららかな春の良き日に。」

「昨日は寝不足なんだ」

「………。ああ、昨日、魔女宅でしたもんね」

「いつ誰が金曜ロードショー見たからって言ったの。」

「違うんですか」

「読書だよ死ねバカ。」

「口悪ぅ」

「うざいなもう。早く自分の部屋に戻ってくれる?布団の中でツッコみ続けるの辛いんだけど」

「やんっ。何か卑猥!」

「………疲れた。」

「そんなリドル先輩の疲れを癒すため、愛の戦士なまえ、イザ・ベッドイン!」

「うわ!」

勢いよくベッドに飛び乗ったなまえは、僕の布団に無遠慮に侵入してきた。
もはや押し出すのも面倒だ。と放っておくと、僕の背中でもごもごと蠢いていたなまえがぴたりと動きを止め、静かになった。

「……リドル先輩。」

「何。」

「私、先輩に嫌がらせをするのが日課なわけですよ」

「知ってるよ。」

「で、今日も今日とて、先輩の嫌がる顔を見ようと思ってこんなことをしてみたわけですよ」

「だろうね」

「先輩の睡眠を妨害したら、そりゃもう楽しいだろうなって。そういう軽い気持ちでですね…はい」

「うん。それで?」

「遅ればせながら、もしかしてわたし、とんでもない状況に陥っているんじゃないかと……太腿を撫でる先輩の手を必死で掴みながら、そう思うわけです。」

「気付くの遅いんじゃない?」


僕はくるりと身を翻してなまえに跨る。
人のはけた二人きりの部屋で、男の布団にもぐりこむなんて、誘ってるのかと思ったよ。


「僕も随分遊ばれたからね。」

「あ、ははは……リドル先輩?」

「100倍にして苛め返してあげるよ。今後従順になるように、ね。」

生意気な後輩
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