休憩室で次のシフトを確認していると、更衣室からマルコ先輩が現れた。先輩とは同じ大学で、このバイトも先輩の紹介で入ったのである。
「あ、お疲れ様です」
「おう」
私の隣の椅子を引いて腰かけた先輩。ブラックの缶コーヒーをゴクゴク飲む姿を横からぼんやり眺め、自分と何歳かしか変わらない彼がとても大人に見えた。

うっかり漏れた欠伸に気付いたらしい。マルコ先輩は苦笑して壁の時計に目をやった。
「もうこんな時間だねい。」
「流石に眠いです」
「フ…ガキだなァ」
「やだな、子供扱いしないでください」
「子供だろい」

私が頬をふくらましていると、マルコ先輩の携帯がヴヴと震えた。
「エースか」
「先輩達仲いいですよね」
「止せよい、ただの腐れ縁だ」口をへの字に曲げながら携帯を取る先輩。

エース先輩とは、私の友達のルフィの兄だ。マルコ先輩ともエース先輩とも、そのルフィを通じて仲良くなったのである。
私は休憩室のイスから立ち上がった。

「それじゃあ、お疲れ様です」

さすがにこれ以上遅くなるとまずい。一人暮らしだから怒る親はいないけど、最近は変質者が出るからと1時より遅くには出歩かないことにしているのだ。
休憩室を出ようとするとマルコ先輩が慌てたように私の手を引いた。

「?」

「あ?うっせェよい。そんなの弟にでも聞きゃいい……寝た?知るか。俺はお前んちの晩飯にまで気かけてやる余裕ねえんだよい。じゃあな!」

かなり一方的な切り方である。
エース先輩の用件も大概だが。

「何ですか?」
「…送るよい」
「え、でも」
「不審者でたって騒いでたのはどこのどいつだい」
「ぶふっ」
「……」
「あ、ありがとうございます、にしおか先輩いだだだ」
「吊るされたくなきゃ笑いひっこめるこった」
「ひゅいまひぇん」
「…行くよい」

荷物を持ったマルコ先輩に続いて店を出る。生ぬるい風を感じながら、私は先輩を見上げた。
「…先輩」
「?」
「今日告白されてましたよね」
「ぶほっ」

あ、あのクールなマルコ先輩がコーヒーを吹き出した。
よし。今日のことは誰にも言わないぞ。

「だ、誰に聞いたんだよい」
「見てました」
「…」
「綺麗な人でしたね。…大人っぽくてスタイルが良くて、何ていうんですか…?あふるるいろけ」
「ブスだよい、あんなの」

私の言葉を遮った先輩。
あのレベルの女性を捕まえておきながら「ブス」とは、この人はどれだけ贅沢なんだ。けしからん。

「私の隣のクラスに、トラファルガーという男が居ましてね」
「…ああ」
「寄ってくるグラマー美人やかわい子ちゃんを食っては捨て食っては捨て……ある日川に落とされました」
「そりゃまた…」
「…」
「終わりかよい!」
「終わりですけど」
「………何のつもりで俺に話したかはしらねェが…、俺はそんな非道じゃねぇよい」
「えー」
「さっきのだって、あの女をどうこうする気はねェしな」
「え?じゃあ…断ったんですか??」
「ああ」
「なんで!」
「……ほら、もう着いたよい」

マルコ先輩はさっさと私を門扉の内側へ押し込むと、複雑そうに眉を寄せてみせた。
「お前は…ちょっと鈍感すぎかもな」
「え?何て、」

一瞬、だった。
門に手をかけた先輩が少し身を乗り出して、私の唇をさっと奪っていったのだ。

「…っな、せ!!」
「今ので」
「…ッ!?」

「俺がお前を気にかける理由も、女をフッたわけも、気付いてもらえりゃいいんだがねい」


悪戯っぽくそう言うと、マルコ先輩は私の頭をひと撫でして門から離れた。
「じゃ、なまえ。

 また明日、な」

ハニーディッパー
(…っあわあわわわわー!!!)

(暗くてよかったよい…。こんだけ赤かったら格好つかねえからな)
942942hit バイトと大学の先輩なマルコ
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