「セーラー服をー ぬーがーさーないで」隣でノリノリで歌っているローにエルボを食らわせて、私はリュックを背負い直した。

「ぐ…なまえ、なんのつもりだ」
「なぜかむしょうにいらいらしたから」
「何で全部ひらがなだ、ったく…犯すぞ」
「せんせー!犯罪者の目をした男がいますー」
「トラファルガーにでも襲われたか?」
「なぜ俺限定だユースタス。殺すぞ」
「ハッ日ごろの行いだ」
「せんせー!全体的に悪魔っぽい男がいますー」
「殺すぞなまえ」

白熊ちゃんのリュックを背負ったローと、毒々しいリュックのキッドが隣に並ぶ。
私は長々と上に続く列を眺めながら(てっぺんはまだか)と強く思った。大体何でこいつら体力あるくせにこんな後ろにいるんだ。先頭集団(ルフィがいるあたり)にまざっとけバカ。

「ちょっと、もっと離れて歩いてくれない」
「ハッ、照れてんじゃねェよ」
「はい?」
「馬鹿だな、ユースタス。こいつは照れてなんかいねェよ」
「そうだよ。その通りだよ」
「怖がってるだけだ」
「はい?」
「俺達をつけ狙うファンクラブの標的になってしまうことを、な」
「…ああ」
「ああ、じゃねーよ!!自分らモテますアピールしてんなくそったれ」
「「事実だ」」
「そうとも!だから余計腹立つクソッタレ」

ローとキッドが私を挟んで来年のチョコの数を予想し合っているのを放置して、私は登る事だけに集中する事にした。
そう、今年の新星高校遠足は登山。からのピクニック。
何で高校に遠足があるんだ。ピクニックとか幼稚園児かバカヤロー!というのは、もう皆どうでもいいらしい。勉強嫌いの私達が、教科書とピクニックを並べられてどちらを取るかなんて言わずとも知れていることなのだ。


「なまえ、これいるか?」
「何その毒々しいキノコ」
「…松茸だ」
「お前松茸見た事ねーだろ」
土にまみれた紫と黄色の毒キノコ(確定)を差し出してくるロー。

「よォ!見てみろこれ」
「ギャー!!」
「あ?何だよ」
「なんだよじゃねーよギャー!捨てろさっさと!!」
大蛇を捕まえ始めるキッド。

もういやだ。ここにいると普通に登る倍疲れる。先頭集団はもう見えないし。私達の後ろには誰もいない。言わずもがなビリだ。

「ユースタス屋、お前のそのミスアナコンダと俺のこのミスター松茸…どっちがあいつに相応しいか、今ここで勝負だ」
「望むところだ。それ食ってこいつが死ねば、テメェにその座はくれてやる…ま、できるわきゃねェが」
「フフ、言ってろ。なまえが手にするのはこっちだ」

生憎私はアナコンダ(仮)を殺傷する威力のあるキノコなんて触りたくもなければ、気持ち悪いキノコを食してケロっとしている蛇もごめんである。
しかしツッコむ気力は乏しい。
頂上はまだ遠いのだ。

「馬鹿言え、なまえを手にするのは俺だ!」
「夢は寝てみる事だ、ユースタス屋。…くらえ!」
「もううっせーよ馬鹿!、っうあ」
「「!」」

耐え切れずツッコんだ拍子に、足元の岩場に生えたコケに滑ってしまった。バランスを崩した体は後ろに逸れる。
うそでしょ、私の人生こんな変な終わり方すんの?
頭を駆け巡るのは、走馬灯ではなく馬鹿二人に対する愚痴の嵐だ。

くそ、死んだら化けて出てやる。



――ぱしっ

「……っぶねェな!」
「大丈夫か?なまえ」

「…」

伸びた私の両腕を、それぞれ掴む腕。二人に引き戻されて、私の体は無事バランスを取り戻した。
振り返って、登ってきた高さを見れば鳥肌が立った。あ、あぶね、
数秒して私の頭上に落とされたゲンコツ。

「テメェ運動神経ねェんだから調子乗ってんじゃねェよ!」
い、いたいぞクソキッド!
「……っお前らツッコんだら落ちたんだよ!」
「おい、足」
「ん?」
「血出てるぞ」

ローはそう言って私の足元に屈みこむと、木の枝にひっかけて付いたのと思われる擦り傷に処置を施してくれた。
その手早い処置に、こいつはいいお医者さんになれるだろうと見当違いな事を思う。

「出来た」
「ん。…ありがと」
「ああ。礼はキスで手を打とう」
「死んでろクソファルガー。行くぞ、なまえ」
「、ちょ」

私の手を引くキッドは何故かものすごく不機嫌だ。
「…俺はまだ言われてねェ」
「…」
ああ、そういうこと。

「ありがとう」

私の思いつきは正しかったようで、握る手が少しだけ緩んだ。(どこまでも子供だな、まったく)


「オイ、ユースタス屋。いつまで手繋いでるつもりだ」
「あ?また転んだら面倒だろうが」
「いやあたしもう転ばないし」
「なまえは黙ってろ。」
「なぜ!」

「トラファルガー、テメェはこいつがまたひっくり返らないように後ろで待機してるんだな」
「それはてめェがしろ。なまえの手は俺が繋ぐ」
「ちょっと!」
反対の手もとられたかと思えば、私の頭上で再度始まる口論。
いい加減にしてくれ。

「でしゃばんじゃねェよ!」
「俺に命令するな」
「あたし登りにくいんだけど!」

(お!お前ら遅かったなー!ってか何で3人手繋いでんだ?)
(…なりゆきです)
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