こんにちは、グリフィンドール1年のなまえです。今日は憧れのリドル先輩の一日を観察してみたいと思います!(断じて暇なわけではありません!)さて、まずは朝ごはんから。わたしは大広間の巨大な扉にぴったりと背中をくっつけてリドル先輩が現れるのを待ちました。リドル先輩が来たら、こっそりついて行って彼の真後ろの席をゲットするつもりです。慎重に、バレないようにやる必要があります。


「やあ。そんなところに張り付いてヒラメにでもなりたいのかい?」

さっそく見つかりました。

「おはようございます、リドル先輩」
「今日も元気だね」
「ええとっても」
「よかったら一緒に朝食でもどうだい」
「ありがたきしあわせ」

先輩のご厚意のおかげで観察はいっそうスムーズに進みそうです。(しかし、ひらめとはなんだろう。……きっと私の知らない職業なんだろうな。まさかあの魚のことでもあるまいし。)ああ、やっぱりリドル先輩は博識、だ。


「あれ、リドル先輩、ニンジンが」
「ああ。これね」
「もしかしてお嫌いなんですか?」
これは観察手帳が活躍するところかも!私はお皿の端に避けてあるニンジンと先輩を交互に見つめた。
「いや、僕は好きなものは一番最後に残しておきたいタイプでね」
「なんだ…」
ちょっぴりがっかりです。
「あ、もしかして食べたかったのかい?」
「いやそういうわけじゃ」
「しかたないね。ほら」
苦笑したリドル先輩が私に、ニンジンが器用に山盛りにされたスプーンを向けました。これ一口で入る量じゃ…、と言いかけましたが、リドル先輩は私がニンジン好きだと思い込んでしまっているようで、ホグワーツの女の子を一発でめろめろにしてしまう微笑みを絶やしません。
私は意を決して大きく口を開けてそれを食べました。が、ドレッシングもかかっていない生野菜だったので全然美味しくありません。涙目になりながら咀嚼していた私は「キミは兎みたいで可愛いね」とリドル先輩に言われて、少し誇らしくなりました。
尊敬している先輩に褒められたのですから。そう思うとニンジンもちっとも不味く感じませんでした。
それにしても、自分の好物をあんなにわけてくれるなんて、リドル先輩はとっても優しい。


食べ終わった後はリドル先輩と一度別れて、私は直ぐに彼の後を追いました。今のところ手帳には「先輩は博識」「先輩は優しい」とホグワーツ中が分かりきった事しか並んでいません。まいりました、これでは観察になりません。もっとしっかり気を張らなければ。

先輩は図書館に向かっているようです。
休日もお勉強なんて、さすがです。

先輩が奥の席で本を読み始めたのを見て、私はその席から一番遠い列の窓側。ちょうどリドル先輩の対格にあたる場所に座りました。先輩の前のテーブルには本がいくつか積んであり、遠目に見ても、私にが到底手の付けられない厚さだと分かります。

「…」

何もしていないのは気が引けたので、私もその辺にあった薄い本を、リドル先輩を真似て目の前に積んでみました。先輩の高さにはとても追い付きませんでしたが、それだけで少し博識になった気がしました。
そうこうしている間に、先輩のもとへ一人の女性が駆けて行きました。
そして彼女は小包らしきものを手渡し、リドル先輩が二、三言それに応じて、女性はこちらにまた駆けてきました。真っ赤な顔の、先輩と思われる女性のネクタイは、カナリアイエローに黒のラインでした。

「リドル先輩はモテる」と、これまた分かりきった事を綴っていると、だんだん瞼が重くなってきました。これはいけない。そう思うのに眠気は一向にいなくなってはくれません。
私は一度リドル先輩の方を伺って、積み上がった本の数を確認してから目を閉じた。
あの量なら当分はここにいるでしょう。私はほんのちょっとだけ、居眠りしたいと思います。(だってこの席はこんなにポカポカしているんですもん、それに、昨日はリドル先輩の事を考え過ぎて、あまり眠れなかったんです)
ではでは、またあとで、リドルせんぱい。







目が覚めると窓の外からは夕焼け色で、太陽はとっくに見えない場所へ行ってしまった事を知らせます。私は体を起こして溜息を吐きました。
リドル先輩の姿がありません。
私はすっかり眠りこけていたようです。
お昼ごはんも通り過ぎて寝ていたせいで、お腹の虫が鳴り始め、私は図書館を出る事にしました。
「ん?」
ふと、開きっぱなしの観察手帳を見ると、隅の方に丁寧な字で文字が付け加えられていました。私の書いた覚えのないものです。

――リドル先輩は、とっても意地悪

だれだろうこんな悪戯するの。私はムカムカした気持ちになりました。
この学校に先輩にこんなことを思う人がいるなんて初めて知ったので、私はその人を懲らしめてやりたくなりました。「……」
しかし相手を知る方法を知らないし、手帳を開きっぱなしで寝ていた私も悪いので、怒りは直ぐにしぼみ、悲しさだけが残りました。なんだか、あいたいな。リドル先輩。

私は本を戻して、小走りで図書館を出ました。
転びました。

「…大丈夫かい?」
「あ…リドル先輩」

入り口のすぐわきにあった長椅子に腰かけたリドル先輩の足にひっかかってしまったようです。でもどうしてこっち側に足が出ていたんだろう……、あ。長いからか。

「まさかそんなに勢いづいて出てくるなんてね…」
「何ですか?」
「…何でもないよ。それより足を見せて」

ホグワーツの廊下はあまりやわらかくありません、転ぶと当然、血が出ます。私も出ました。
「ごめんね」と言ったリドル先輩の顔は、複雑そうな、困ったような、そんな顔で、私はブンブン首を振ります。私は体が小さいので、怪我にはなれっこなのです。

それでもリドル先輩は私をイスに座らせると、前に屈んで、ご自分のハンカチで私の膝を押さえました。
「あ!あの、汚れちゃいます」
「静かに」

そう言ったリドル先輩の声も静かだったので、私は口を閉じました。
…そっかここは図書館前だった。
さすがは模範生のリドル先輩。人様に迷惑をかける事や、規則に触れることは絶対にしません。(図書館で居眠りなんて、リドル先輩が知ったら怒られそうですから言いません。)私も見習いたいな。
ポケットから手帳を取り出しかけて、リドル先輩の前だったと気付くのと、さっきの言葉を思い出すのはほとんど同じでした。思い出すと、また悲しくなります。

「……なまえ」


私は驚いて俯かせていた顔を上げました。リドル先輩はじっと私を見つめています。
先輩、私の名前、ご存じだったんですね。
また「静かに」と言われそうで、私は口には出せませんでした。その代わりに私も先輩を見つめ返します。膝に置かれていた手が私の顔の方へ伸ばされ、カチンと固まったままの私の頭を引き寄せました。


先輩の、女の子をめろめろにしてしまう綺麗な顔が近付いてきて、私はきつく目を閉じます。心臓は、煩いくらいにバクバクしています。


「、り……リドル、せ」


「しずかに」


ちゅ


私の鼻のてっぺんに、リドル先輩は唇を落としました。驚いて目を開けた私はさぞかし真っ赤だったことでしょう。
背中に夕日をいっぱい浴びたリドル先輩から見れば、なおさらに。
くすくす、先輩は笑います。

「…本当にかわいいね、君は」

拝啓、名無しさん
リドル先輩は、もしかしたらちょっとだけ 意地悪なのかもしれません。

922922hit リドルと後輩
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