『へえ、じゃあこんなにラブラブな二人にも、冷めきっていた時期があったんですねー』 『冷めてたのは彼女でボクが一方的にアタックし続けてたんですけどね』 『もう軽くストーカーだったんですよ、この人!うふふ』 『そんな彼女を旦那さんはどうやってオトしたんです?』 『えー、やっぱアレかなあ』 『ちょっとやだ、あれ言う気?恥ずかしいわよっ』 『アレとはなんです!?』 『いやあ、たいしたことじゃないんですよ。ただあんまりにも彼女が冷たいから、一旦引いてみようと思って』 『そしたら私が急に寂しくなっちゃって』 ソファにうつ伏せになりながら雑誌を読んでいたなまえの手から、ソフトクリームが落ちる。 無残な姿になったそれには目もくれず、流しっぱなしで放置していたラジオに飛びついた。 「な、な…っ」 『おおー!押してダメなら引いてみろ、作戦ですね!』 「お、お…!」 押してダメなら引いてみろ 「その手があったぁぁぁぁあああ」 Attack Number One!! 「そうかそうかそうか、ぐっふふふふ!押してダメなら…ねえ……クハッハハハ!!」 「…」 「ちょっとダズ、乙女をそんな目で見ないで!」 「誰か鏡持ってないか」 「おい。」 ダズは私が落としたソフトクリームを始末しながら、あたかも不可解なものを見るような目で私のことを見てきた。だが今の私は相当ご機嫌だから怒ったりなんかしない。 「まあ聞いてくれよ、ダズ!」 「いい」 「そう言わずに。あのね!クハハフフ…っ」 「(聞きたくない)」 「私は日ごろの行いがいいからね天啓をえたわけ!」 「自分が溢したアイスをひとに拭かせるような奴の行いのどこが良いんだ。」 「ついにクロコダイルさんを振り向かせる方法を知ってしまったのだよ」 クロコダイルとなまえの関係を一言で表すとするならば、それは「恋人」で間違いはない。バロックワークス社において知らないものはいない。ああ、そうとも。だがもう一言、たった一言付け足すとするならば、だ。恋人の前に「温度差が極めて激しい」がつく。 「ちょっとアンータ!あやふやねーい!二人の温度差はねい…南極と北極みたいなもんよーっ」 「どっちも寒いガネー!」 「じゃあキムチ鍋と冷麦」 「よだれ出てるガネ!ミス・ゴールデンウィーク!」 「じゃあ赤犬と青雉、ってところかしらね」 「…、…」 今のところ一番近い表現がミス・オールサンデー案らしい。 というように、他メンバーからの様々な意見を受ける程に温度差のある二人。これを埋める方法となれば、ダズも僅かに興味が湧き、彼女の話に耳を傾けた。 「その名も、押してダメなら引いてみろ大作戦ー!ドンドンパフパフー!」 「そうか頑張れ」 「一気に興味なくさんといてー!」 「…結果は目に見えている」 「なっなんだとぅ!!言っとくけどね!クロコダイルさんだって私に冷たくされればそのうち寂しくなるんだからね!絶対!」 「…いや、その前にお前が」 「あ、クロコダイルさん帰ってきたみたい」 玄関から距離があるにもかかわらずクロコダイルの帰宅を素早く察知するなまえ。 そんなお前には絶対その作戦は向かないと言って聞かせてやりたかったが、本人はいたってやる気満々である。 「クロコダイルさんは毎週水曜日の宮殿での会談の後には必ずこのキッチンに立ち寄ってミネラルウォーターをコップ一杯飲むから」 「(ストーカーだ)」 「私とダズがここでお喋りしてて、特に何事もアクションを起こさずにいればOKね!まずはこのくらいから始めるのがよろしいよね、うん。…あと4秒くらいかな」 ガチャ 装飾されたドアノブが回りクロコダイルが姿を現す。 「(本当に4秒だった…)」 「あ、クロコダイルさんおかえりなさい」 「あァ」 「それでね、ダズ!このまえ拾ったトリの軟骨がね」 「(鳥の軟骨だと!?ちょっと待て何の話をしている設定だ!…どう話をふくらませればいいんだ俺は)」 クロコダイルは冷蔵庫から水を取り出すとコップに注ぎ、何事もなくそれを飲み干した。 ダズはこれまでにないほどの罪悪感、もとい、いたたまれなさを感じながら、懸命に頭を働かせる。その間もクロコダイルは動じる事無く、むしろこちらに一瞥もくれず、ペットボトルを冷蔵庫に戻した。 「やっぱりあそこの焼き餃子は最高でさ、一度食べたらやめらんないのよ!」 「あ、ああ」 カツ、カツ、カツ 「でも私的にはその向いのイタリアン料理も最高でさぁ」 ギイ 「モンブランケーキと、ち、チーズケーキが」 バタン 「…」 「…」 「…」 「…」 「………クロコダイルさん待ってェェェエ!!」 ガタ、バン!キッチンを飛び出したなまえ。身を乗り出して、大きく開け放たれたドアの向こうを見れば、丁度彼女がクロコダイルの背中に抱き着いているところだった。(――やっぱりな) 「、あ」 短く声を漏らしたダズ。 剣士たるもの、五感は常に張り巡らせているものである。その張り巡らせた五感のほとんどで、ダズは些細なクロコダイルの変化に気が付いた。 僅かに下りた肩や、なまえの声を耳に入れたと同時に吐き出された小さな溜息。 刺々しかった空気が丸みを帯びた事など、見るよりも明らかである。――つまり、そういうことなのだろう。 温度差は激しくとも、二人の気持ちのベクトルは寄り添って同じ方向に向いているのだろうと、ダズは柄にもない事を悟るのだった。 Attack Number One!! (押してダメなら引く?ンなくだらねェ事してやがったのか) (1分もたなかった…) 905905hit 押してダメならひいてみる。 ×
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