このクラスには不良がいる。赤い髪を逆立て、同色の瞳に鋭い光を宿し、何人たりて寄せ付けない孤高の雰囲気を放つその男。名を、ユースタス・キッドという。噂じゃ、巷の不良を片っ端から病院送りにした事もあるらしい。

つまり俺達普通の生徒は、奴がとても恐ろしい。


月曜日 昼休みを終えた頃現れたユースタスはその後の授業も机に突っ伏して寝ていた。何のために来たんだ、とは誰も言わない。よく見られる光景だからだ。

火曜日 ユースタスは来なかった。

水曜日 3時間目の始まりに来たユースタスは、目の下と口の横に紫色の痣ができていた。

木曜日 多目的室前でユースタスが告白されているのを見かけた。相手は日本人かと疑ってしまう程こんがり焼けた茶髪の、いかにもギャルですよな女子で、ユースタスは断っていた。正解だと思った。

金曜日 珍しく朝からユースタスが学校に来ている。教師もクラスメイトも驚いて、何か起こるのではとヒヤヒヤしていたところに、それは起こった。



ホームルーム間近の教室。前方の扉が勢いよく開いたかと思えば、見た事の無い女子がそこに立っていた。離れたクラスか、もしくは年下か。小柄な体系に幼い顔つきが非常に印象的だ。ただ、彼女は、号泣していた。


「なんだ何だ?」
「後輩か…?」
「どうしたんだ」

クラス中がざわめく中、ガタンと何かの倒れる音。
そちらに反応して振り向けば、目をカッと開いたユースタスが立ち上がっていた。対角線上にいる二人の視線が交わり、先に動いたのは少女の方だった。
机を避けながらユースタスの方に走り、その勢いのまま、なんと、飛びついたではないか。

この時点で俺達は驚愕と、そしてこの後彼女が受けるであろう酷い仕打ちを想像して震え上がった。


「…キッド兄ちゃん……!!」

妹さんだった。


そうだそうだ、何か既視感があるなと思っていたが、彼女の鮮やかな赤髪はこのクラスの不良と同じではないか。
(この学校には変な髪の毛の奴が多いから特に気にしていなかったが。)
ユースタスの妹なる人物の突然の登場に、クラスメイト達は皆唖然としていた。


「な、何泣いてんだ、なまえ」
「う…うう…にいちゃ」
「…言わなきゃわかんねェだろ」

しゃくりをあげる彼女の目線の高さに腰をかがめたユースタスは、自分の服の袖で少女の濡れた頬を拭っていた。
見かねた我がクラスの果敢な女子の一人が恐る恐るハンカチを差し出せば、ユースタスは意外にもそれを受け取り、苦笑のような表情で「悪ィ」と言った。

少し落ち着いてきた彼女の話によれば、体育の授業で友達に怪我をさせてしまったらしい。何故知っているのかというと、聞いていたからだ。皆各々が作業をするふりをして聞いていた事だろう。そして驚いたはずだ。

「ど、うしよう……みっちゃ、ん。きらわれたら」
「…行くぞ」
「…?」
「保健室。…いんだろ?」
「……うん」
「悪ィ事したと思ったら謝りゃいい」
「、ゆるしてくれなかったら…?ひっく」
「そん時はそん時だ」
非情にユースタスらしい慰め方であった。

「兄ちゃんがついてってやんだ。気ィ強く持て」

ユースタスはくしゃりと彼女の頭を撫でる。俯いていた彼女はぱっと顔を上げ、涙を拭って強く頷いた。
それに笑みで応えたユースタスは机の横にかかっていた自分の鞄を肩に下げて教室を出ようとしたが、思い出したように振り返って、ハンカチをちらつかせながら言った。明日返す。サンキューな。だと。意外と律儀な男だった。


「…」

知る人ぞ知る悪党ユースタス・キッドのこの一時の言葉と表情に、頬を染めた女子が何人かいたことは、ここからしか見えない景色である。――ともかく。
うちのクラスにいる不良、ユースタス・キッドは、とても妹思いな優しい不良だった。

クラスメイトAの考察
887373hit 学パロキッドと妹
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