「ねえねえねえねえ、クロコダイルさーん、かまってよー!暇だよー!」
「黙って転がってろ」
「暇の極みじゃないか!」
「極めてんだろてめぇは」
「まーね」

書類に黙々とペンを走らせていたクロコダイルさんのすぐ脇の床でごろごろしながらそう訴えているのに、クロコダイルさんは全く相手にしてくれない。
冷たい床で転がっているのは非常に気持ちがいいけど、そろそろ体が痛いや。

「ねえクロコダイルさん」
「あ?」
「この前雑誌に載ってた新発売の化粧水が欲しいの」
「そうか」
「あとね、チュチューズの洋服とバックとBCDマートのキラキラのサンダル!」
「へえ」
「この前ボンちゃんに借りたサングラスも素敵だなぁ」
「本気で欲しいと思ってんのどれだ。言ってみろ」
「…特にない」
「ほらな」

だってここには何でもそろってるし。もともとそこまで物欲は無いから、モノに困る事は無い。強いて言うなら、…

「クロコダイルさんと過ごすアフタヌーンがほしーですかね」


特に深く考えずそう呟いたなまえは、ふとペンの音が止んでいる事に気が付いた。
「クロコダイルさん?ギャ」
「…」
顔を上げれば険しい顔つきのクロコダイルさん。

「ちょ、え、怖」
「あ?」
「な、何で?何で怒るんです」
「…怒る?何の事だ」
「か…鏡見せたろか」

クロコダイルは自分の頬が緩みそうになっているのを堪えているだけだったが、それと対峙しているなまえは既に涙目だった。ああ、なんて悪人面なのクロコダイルさん…

「も、もうやだごめんね!だってあんまりにも暇で…」
「…」
「わ、私…ぼぼ、ボンちゃんのとこ」
「待て」
「うぎゃふ、ぐえ」
ドスの効いた声で呼び止められ、起き上がった私の腰はぐいっと引っ張られた。色気のない悲鳴のオンパレードだ。最終的に私が乗ったのはクロコダイルさんの膝の上。

「ハハ。冗談ですよね」
「黙っとけ」
「そしてまさかのお仕事続行!?」
「黙ってろ」

膝の上で横抱きにされているような体勢になり、一気に近付いた距離に私の心臓は煩く跳ね始める。再び手を動かし始めたクロコダイルさんの顔を、下からそろりと覗く。

ぱちり

気だるそうな瞳とかち合い、慌てて逸らすと笑われた。

「ガキ」
「う、うっさい」
「…終わったら飯でも行くとするか」
「!!ほ、ほんと?」
「誰もテメェを連れてくとは言ってねえ」
「………」
「クハハ、泣け泣け」
「いじわる…」

結局、さんざん私をいじめたクロコダイルさんは、お仕事を終えてから高級そうなレストランに連れて行ってくれた。私明らか場違い。回転寿司とかでよかったのに。愚痴る私の頭をわしゃわしゃと撫でて可笑しそうに笑う。
そんな彼を見て、私も心が日和のだ。思い上がりかも知れないけど、クロコダイルさんのこんな顔を見られるのなんてきっと世界で私だけ。
クロコダイルさんが、こんなにドロドロに甘やかす相手だって、きっと世界で私だけだから!

溶けない飴
900000hit クロコダイルに甘やかされる