(ローの船が潜水艦になる前の話)



薄暗い船内を雷の鋭い光が一瞬照らす。遅れて地鳴りのような雷鳴が轟く。
なまえは眉をひそめてベットに潜りこんだ。船が大きく揺れる度、音が鼓膜を震わせるたびに毛布にくるまって耐える。

雨は嫌いだ。雷も荒れる海も大きく傾く船も全部、嫌い。こんな日はどこはかとなく死の匂いが漂っている気がする。


――それが、たまらなく怖かった。

「…、ロー」

わたしはそっとベットから抜け出した。部屋の戸を開けるとすかさず雨が入り込んでくる。先程より大きく聞こえる雷の音と肌に突き刺さる冷気に目眩がした。ローの部屋は物置を挟んだ二つ隣だ。ゆっくりと壁伝いに進んでいく。


「…っ!!」

後少しと言うところでふいに強い風が吹き抜け、なまえの体は浮き上がった。声を上げる前に目的地であるローの部屋のドアが勢いよく開く。そこから伸びた腕に掴まれば部屋の中に力強く引きこまれた。


「ハッ、ハア……ロー」
「馬鹿野郎…何やってんだ…!死にてェのか」

ぶんぶん首を振る。死にたいわけない…!助けてくれてありがとう。言いたいことは山ほどあったけど、今の出来事での恐怖でか目の前で不機嫌に眉を寄せているローのおかげか。
兎に角わたしはすっかり竦み上がってしまっていたのだ。


「ビビらせんな」
「…ロー」
「お前が、もし海にでも落ちたりしたら俺は助けられねェ」

雨の所為ですっかりビショビショのわたしをローは優しく。でも確かに存在を確かめる様にして抱きしめた。私はどうしていいか分からずに、ローのあたたかい肩口に顔をすり寄せた。よかった…生きてる。


「ごめんなさい…。ロー」
「分かりゃいい」

言うのと同時にローはわたしの服の裾に手をかけた。流されそうになって慌てて止める。(なな、何やってんの)(風邪ひくだろ)問答無用で衣服をひっぺがされて代わりに暖かな布を巻かれた。そしてそのままベットに投げられる。


「寝るぞ」
「この格好で!?…せ、せめて何か」
「今更照れんなよ」
「そうだけど!でも落ちつかないしやっぱり着るものを」
「煩ぇ」

布団の中ですっかり抱きすくめられて、心拍数は異様に上昇した。それもそのはずだ。さっきは死にかけて今はこれ。このドキドキの原因がどっちなのか私にはさっぱりだった。


「お前、未だカミナリ怖かったんだな」
「……」
「怖くなくなるまじないでも教えてやろうか」
「え、そんなのあるの?」
「ああ」
「教えて!今すぐ教えて!」
「…いいぜ」

ちゅ、と額にキスを落とされる。目元、鼻の頭、唇の横、首筋、徐々に位置を落としていったローは真っ赤になって固まっているわたしを見て笑い、一言告げてから唇に吸いついた。

「俺だけみてろ」
効果絶大