今日は海軍のお仕事が休みだ。有給をもらった。私は朝早く作ったお弁当を持って心弾ませながらある場所へ向かう。 「うわあ……。今年も咲いたなぁ」 ザザンと流れる風に桜色の花びらが身を委ね、グローブ全体に咲き乱れる満開の桜たちをいっそう彩った。 ――ここはシャボンディ諸島71番グローブ。 知る人ぞ知るシャボンディ諸島の隠れスポットである。 「へえ…シャボンディ諸島にこんな場所があったとはな」 「びっくりでしょ?毎年この季節すごい綺麗で………ギャー!!!」 「煩ぇ」 振り返ればしらっとした表情で立っている海賊、トラファルガー・ローの姿。いつも通りのニヤニヤ笑いを口元に浮かべているその後ろには、なぜかドレーク元少将がいた。 「久しぶりだな、なまえ、俺に会いたくて夜も眠れなかっただろ」 「快眠でしたけど!というか、な、何でここに!」 「トラファルガー、こいつに絡むのは止せ」 「少将……!あの……私今日有給なんであんまり働きたくないんですけど!!」 「安心しろ。こいつは直ぐに連れ帰る」 「安心しろ。今日は無礼講だ」 「言ってること見事に違う…!というかトラファルガーは何でそんなに馴れ馴れしいの!馬鹿なの!?」 「一回交えた相手に遠慮もクソもあるか?」 「刀をな!紛らわしい言い方しないでいただきたい!ほら、少将勘違いしちゃってるから!ちがいますからね!」 その時身体が急に持ち上げられ、あっと言う間に米俵が如くかつがれた。 「ゴチャゴチャ煩ェよ、バ海軍女」 「ユースタス!」 「さっさと始めようぜ」 「は、離せ下ろせ!始めるって一体何をっ」 「「花見」」 「…は?」 「…」 ニヤリと悪党らしい笑みを浮かべたユースタスとトラファルガー。溜息を吐いて目元を覆ったドレーク元少将。 少将曰く、ちょっと私に顔見せに来ようとしたらなんか全員ついて来た。みたいな。 「そ、そんなバナナ」 こうして私の首が賭けられたお花見が、今、始まった。 ** 「おいなまえ!オメェもっと食え!太くならねェぞ!」 「そうだ食え!肉食え肉っ、うんめーぞォ!」 「や、もうお腹いっぱいで…うぶっ」 「おい麦わら屋、ジュエリー屋、テメェ等の胃袋と一緒にするな」 「キャプテーン!お団子買って来たよー!」 「でかしたぞベポ。さあ食えなまえ」 「い、今さっきのお前の言葉を復唱してやろうか…」 「なまえ」 「…」 「今の所お前に死期は見えない」 「そ、そうよかった」 「婚期もな」 「え、余計なお世話なんですけど」 「良いアドバイスをやろう。4月4日4時44分44秒に鏡の前である呪文を唱えると翌日に「ひーん!!少しょ…じゃない、元少将ウウウ!!」 「そうか、死期も婚期も…」 「残念そうな顔しないで下さいよ!」 「なまえ、今日は悪かったな。…たまの休みを」 「いえ…まあ…少、…元少将の所為じゃないですし」 「ふっ……ドレークだ」 「?」 「そう呼んでくれ」 「お前海軍なんだろ?バレたらやべーんじゃねェの?」 「分かってるならさっさと退散してほしい」 「そりゃ無理ってもんだぜ!なんたってオラッチのテンションはもう絶好調だからよ!チェッケラー!」 「うっさ!近所迷惑ッ」 「なまえ、テメェいい加減俺の船に乗りやがれ」 「だからね!アイアム海軍!OK?」 「フフフ」 「うわっ」 「トラファルガー!テメェどっから沸いて出やがった!」 「俺はいつでもOKだ。どうだ今晩」 「クザンか!!あ、やべ、呼び捨てにしちゃった誰も見てない??」 一番大きな桜の木の下を陣取ってのお花見は、正直楽しかった。相手が海賊達だから最初はどうなることかと思ったけど、何てことは無い。 (今日だけだ…。今日だけ) 変態発言をかますトラガルガーに冷ややかなツッコミを入れているユースタスや、美味しそうにお弁当を頬張る彼らをを眺めながら心で呟いた。(明日からは、ちゃんと敵!) よし!飲めとどこぞのクルーに渡された杯を仰ぐ。 その瞬間、近くで物凄い爆音がして私は思いっきりお酒を吹き出した。ユースタスの顔面直撃!「おっつ…ごめん」「…テメェ」笑い転げるトラファルガー。しかし私はそれどころじゃない。 煙の向こう側に並ぶのは迫撃砲と、そして見慣れた制服の隊列。 「やべェ、船長!」 「海軍だ!」 や っ ぱ り ! こんな状況味方に見られたらまず間違いなく寝返ったと思われる!そらそうだ!ルーキーがごっそり集まったこの謎の集会に参加してんだもん!…つーかこいつらも何で集まってんの。敵じゃないの!?まあいいや!とにかくどうしよう! 「おい」「持ってろ」 「うわぷっ」 青ざめていた私の頭に被せられたのは、トラファルガーお気に入りのもこふわ帽子。投げつけられたのはユースタスのゴツいコート。 「…」 着ろって、そう言うことなのかな。 私は無言でいそいそとコートに腕を通し、帽子を目深に被り直した。あーあ。あーあ! 「………ありがと」 この言葉が届かなければいいのにと強く願ったのは、初めて、だった。(二人の持ち上がった口角は見なかったことにする。) 花より喧嘩! 888888hit ルーキーで花見 |