「おーいなまえちゃん、放課後俺ちょっといないから」
「!」

昼休み、友達と和気あいあいとお昼ご飯を食べていると、前のドアから顔を出したサンジ先生が唐突に言った。
私は手にしていたおにぎりを取り落としそうになりながらそちらを見る。
そして瞬微な動作で立ち上がって先生のもとへ走り寄った。なっ…!!

「な、な、なっ」
「落ち着け!」
「っなんでですかバカヤロー!」

サンジ先生は片耳に指を突っ込んでうるさいアピールをしてきやがったけど、おいコラ待てボケ。それどころじゃない!
「だって先生、今日はっ」
「待てバカ。ちょっと来い」

教室の出入り口でがなり立てようとした私を引っ張って廊下に出たサンジ先生。
ストライプのスーツにお洒落ネクタイ。シックなスタイルが相当似合っていて一瞬目を瞬かせたが…いや待て。今はそれどころじゃない。(二回目)


「今日は放課後、ケーキの作り方教えてくれるって…!!」
「悪い。外せねェ用事が入っちまってな」

片手ですまんと詫びる先生の脛を蹴っ飛ばす。
大袈裟に痛がっていたけど知った事か!乙女との約束を破るとこうなる事を身をもって知るがいい。

「分かりました!大人の事情って奴ですね」
「お…おお…」
「私も子供じゃないのでその辺は察して身を引きます。先生は先生だし」
「そうか…。できれば蹴る前にそうして欲しかったが、まァ…いいか」
「ただーし!!」
「ん?ぐえっ」
私は先生のネクタイを引っ張ってちょっと屈ませ、自分が出来うる限り一番怖い凄み方をして囁いた。


「私が、帰宅途中、両手に花〜wwな先生と遭遇なんかしちゃった暁には……ね。」
「…心得ましたなまえ嬢」
「じゃあいいです」
ぱっとネクタイから手を離して教室に戻る私を、先生は「あ、ちょっと待て」と呼びかけた。その顔がほんのり青いのは私の凄み方故だろうか。…うん、ちょっと悲しい。

「飯粒ついてるぜ」
「え?」
「レディは身だしなみに気ィ遣うもんだぞ」
「!」

私の頬にすっと触れたサンジ先生は、米粒をさらってさっさと歩いて行ってしまった。
私はその場でしばらく遠のく背中を眺め、それから教室に戻る。一緒に食べていた友人たちが振り返り「なまえ顔赤いよ?」なんておかしな事を言い始めた時はちょっと焦った。照れてない!こんなんで照れるもんか。







「なまえ今日誕生日でしょ?」
「んー!」
「うち来なよ」
「あ、うーうん、大丈夫!ありがとね、みっちゃん」

心配してくれる優しい友人に手を振って教室を出る。
「…」
訳在って一人暮らしな私には、誕生日を祝ってくれる家族がいなかった。それでも別に寂しい訳ではない。
私には私を案じてくれる友達がいるし、両手の手提げ袋には皆から貰ったプレゼントでいっぱいだ。――これだけ愛されていて、寂しいはずがない。
下駄箱で靴を履きかえていた私の隣に人の気配を感じる。
ふっと顔を上げて一番に視界に映ったのは、優しく笑みを浮かべたサンジ先生。

「浮かない顔してどうしたんだい?レディ」
「…、なっ何で学校に」
「フフ」
「し、しかも…何その格好」
「似合うだろ」

確かに似合うけど…。
お洒落にスーツを着こなした先生は、呆然とした私を前にさっと片手を差し出す。

「お手をどうぞ」
「…」

ほとんど無心にその手を取った私がサンジ先生に連れられて行き着いたのは、家庭科室。
カラカラと扉を開けてエスコートするようにドアの傍に立つ先生を不安げに見上げる。
にっと笑った先生が指を鳴らせば、閉まっていたカーテンが一気に開き、そこかしこからクラッカーの鳴る音が響いた。
「えっ!!」
夕日が差し込む室内には、クラッカーを持ったルフィ君やゾロ君達の姿がある。

「ししししっ!!大成功だ!」
「ルフィ君…」
「なまえ、あんた今日うち泊まりなさい!強制よ」
「ナミちゃん…な、なんで」

「皆お前の誕生日を祝いたくて来たのさ」

いつの間にか煙草に火をつけていたサンジ先生を見上げる。

「ま、そう言うこった」
「ゾロ君」
「この部屋の飾りつけは主にこのキャプテン・ウソップ様の仕様だー!感謝しろ?なまえ」
「ウソップ君も…」


「俺と作ったケーキをなまえが持ち帰りたがってるって聞いてよ。どうせならってこいつらも呼んじまった」
「……じゃあ、用事って」

言いかけた時、調理室の方のドアが相手、大きなケーキを抱えたフランキー先生と、ご馳走をたっぷり持ったロビン先生が入ってきて私はいよいよ泣きそうになってしまう。
何これ。こんなの知らないよ。
約束をすっぽかされて萎んでいた私の心はムクムクとハリを取り戻していく。

眉をきゅっと寄せて涙を堪えていた私は思わずサンジ先生に抱き着いてしまった。でも、サンジ先生は押し返さずにいてくれて、代わりに大きな手がぐしゃりと私の頭を撫でた。
心が芯から暖まるような出来事。

ついにはボロボロ泣き出した私が喉から絞り出した情けないありがとうを、皆は優しく受け止めてくれた。

恋い慕う、明日
886500hit サンジで先生パロ