少し前置きをしておこうと思う。私、ことなまえとキッド、ローの三人は巷じゃ「問題児トライアングル」と呼ばれ、貶されたり罵倒されたりたまに褒められたりと賛否両論な立ち位置にいる。

私達の夏は、そらもう凄かった。荒れた。

「荒れたっつーのか?アレ」
「え、言わない?」
「言わねェよ」
「ふむ」

世間一般の不良達が「荒れた」とくれば、煙草に喧嘩、援交万引き虞犯のあれこれを言うのだそうだ。ロー曰く。

「じゃあさ、地域のゲーセン行き尽くしてありとあらゆるゲーセンの猛者達を倒してきた私達の努力は何だったの!」
「確かに…夏休みだけで相当腕上げたからな、俺達」キッドが遠い目をして言った。

ゲーセンだけじゃない。
コンビニ巡りをして当たり付きアイス買い占めたり、海行ってビーチバレー大会の優勝勝ち取ったり、夏祭りで射撃(私)金魚すくい(ロー)型抜き(キッド)で各々大量に商品かっさらったり……挙げればきりがない。


「あたし非行の限りを尽くしたと思ったねー」
「店泣かせとか言われてたな」
「あ、ローんちの金魚元気?」
「あー…この前ハチが逝った」
「「何!?」」


そんな夏も終わり、食欲の秋も過ぎれば私達の苦手な冬が来た。(夏も苦手だけど。)
今は正月間近の土曜夜。
唐突にうちにやってきたローとキッドと、ミカンを食みつつコタツでぐだっている次第である。


「もーういーくつねーるーとー」
「…」
「…」
「乗れよおまえら」
「…ユースタス屋寝てる」
「ちょっと静かだなと思えば」

コタツの中に伸びきっていたキッドの足先がすぐ隣にあったので靴下を引っ張ってやった。脱げた。
「はいローあげる」
「あ?…うわ、いらねェ臭ぇ」
「臭くねェよ!!」
「起きてたのかよ」

キッドとローがどつきあいを始めたのを眺めつつ、私はぼんやりと欠伸をした。
思えば、今年一年ほとんどこの二人と一緒にいた気がする。

「…」

正直、おモテになるお二方と一緒にいるのは楽しいばかりではない。ファンなる女の子達からの目は中々痛かったし、奴らが告白を断るたびに私の存在が露呈して一々面倒臭かった。

だけどそんな事ちっぽけに思えてしまう程、
二人といる学校生活が捨てがたいものだったのは言うまでもない。


「…なまえ」
「…んあ?」
「何ボーっとしてんだ」
「ミカン食い過ぎて下したか?…いてェ!」

ニヤニヤ尋ねてくるローの足をぎゅっと抓って、私は立ち上がる。
漫画片手のキッドも視線を上げて小首をかしげた。

「さて。今年の〆にはこんなのどーお?」


タンスの中から夏に大量買いしたまま忘れかけていた花火の残りを取り出せば、二人の顔がにやりと悪戯っ子のそれになる。


「いいじゃねェか」
「冬に花火ってのも粋なもんだ」

いそいそ上着を着込むキッドとローを尻目に、私はこっそり微笑んだ。来年、再来年、一緒に居られる確証は無いけど、私達には今がある。

「よし、いっちょ行きますか!」

新年の抱負も願掛けも、もうとっくに決まりきっていた。

青い春を謳歌せよ!
884488hit 2010年キッド短編「嗚呼、矛盾!」続編