少し現実的な話をしてもいいだろうか。一応許可は取ったから、してみることにする。

――恋には飽きが来る。
これを言い変えると「恋はいずれ冷める」になる。どちらにしても、口にした途端、嫌な奴として周囲に認識されてしまうのは否めない。
でもだってしょうがないじゃん!と、私は思ってしまうわけである。
片想いは楽しい。目が合えば胸が跳ねるし、言葉を交わせれば一日中幸せな気持ちでいられる。相手の言動に一喜一憂してみたり。すごい楽ちん。
だけどそれは、告白して、付き合って、長い間一緒にいれば薄れてしまう感情なのだ。



「長くなってごめんね。つまり、私は今ものすごいローが好きだけど、どうせ冷めるから付き合いたくないの」
「何だそれ。斬られたいのか」
「滅相もない」
「俺はこんなけったいなフラれ方をかつてした事がねぇ」
「…まずフラれないくせに」
「その前に自分から告白なんてしねぇ。…お前が初だ、喜べ」
「わーい!メッチャ嬉しい、どっか行って」
「意味が解らねぇ」

私は自分の胸がキュンと縮むのが分かった。好きだ。…ローの事が好きだ。
第一印象は確か「え?なんか海賊が図書館にいるんですけど、ミスマーッチ!」だったけど、ある日話すようになって、島に停泊している間に好きになった。惚れっぽいわけではないから、ローには人を惹きつける何かがあるのだと思う。
そして話は戻る。

「だからね…私、ずっと片想いでいたいわけ。わかる?どぅーゆーあんだすたーん?」
「分からねぇ」
「何でよ!医者でしょ」
「バカか。お前それ、じゃがいもは好きだが食いたくねぇって言ってるのと同じだぞ」
「ほんとだ。(例えジャガイモって何だか分からんけど…。)」
「しかも理由が何だ?飽きるから?」
「うん」
「殺すぞ」
「な、なんでっ」


ローはカウンターをはさんだ向かいにいる私に、4、5冊の本をずずいと差し出しながら眉根を寄せた。
そう。奴は、思いっきし私の勤務時間内に、しかもこんな人の目のある所で堂々と告白してきやがったのである。おかげで私のカウンターにはロー以外の人間が寄りつかず、しかし視線ばかりは寄せ集まるという…。


「返却ですね。かしこまりました」
「いいか、よく聞けよ」
「カードはお持ちでしょうか」
「持ってるわけねぇだろ」
「何で!昨日作ったじゃん」
「捨てた」
「はいい!?」
「いいから聞け。バラバラにするぞ」

ローが背中にかけている刀に手をやり始めたので、私はしぶしぶ、再度ローの話に耳を傾ける。

「この俺が相手で、お前の方が冷めるなんて事はまず有り得ねぇ」
「何それ。私は飽きられるかもってこと?」
「何故なら俺は、お前には勿体ねぇ程できた男だからだ」
「聞いてる?つーか何でそんな自信過剰なの」
「自分に自信がなきゃこの海は渡れねぇよ」
「…すごい説得力」
「俺はお前が好きだ。お前もそうだろ」

何お前!違ったら相当恥ずかしいよ!そう言ってやりたいのに、私の心臓はさっきから激しく跳ねまわっているようで、今にも左胸から飛び出していきそうだった。冷静に会話できているのが奇跡である。


「ローのこと、は…」
「…ああ」
「―――……すき。」
「なら」
「…でも、好きな人を好きでなくなっちゃうのは、辛いよ」
「…」
「恋なんて永遠じゃないもん。だったら、私は…綺麗なまま、思い出にしておきたいんだもん」

さっきローに言われて気付いた。
好きな人を好きでなくなってしまうのは、当然辛い事だし、寂しい事だ。
でもそれ以上に、
好きな人に好きでなくなられてしまう人の方が、万倍辛いし、万倍寂しいし、万倍痛いに決まってる。



「ローに飽きられたら。…わたし、きっと死にたくなる」
「…なまえ」

私が呟けば、ローはそっと確かめるように、私に囁きかけた。「好きだ。」なんて真剣な顔。

「好きだ。お前が。お前だけが。今までのとはどうにも…違ぇ。…理屈じゃねえんだよ」
「、っ」
「俺が好きか」
「…」
「その質問だけに答えろ。なまえ」


お前、俺が好きか?

尋ねておきながら、ローはすでにこの返答を知っているらしかった。私は暫くローを見つめ、そして頷いた。
「…すき」
ローの口元が満足そうに持ち上がる。
「そしたらもう渋る理由なんざどこにもねぇだろ。」そして一度鼻を鳴らし、続ける。


「飽きさせねぇよ。この海で、俺といる限り、そんな感情は忘れさせてやる」


自信満々にそう言い放ったローが差し出した手を、私はほとんど無意識で、縋るように握ってしまった。
ローは嬉しそうに目を細め、私の心臓はまたキュッとときめき始める。
ああ…なんか、ほんと、

容易く覆す!
(どっぷりハマりそうで怖いんですけど)

808080hit 図書館司書とロー