私の超絶嫌いな魔法薬学の時間が訪れたがしかし!私の心はそれほどやさぐれてはいなかった。以下、スネイプ先生よりのお言葉だ。


・今日の魔法薬学はペアを組んでやってもらう(それほんとですか先生!)
・吾輩が適当に組んだものだが文句は言わせん(言いませんともっ)
・失敗したらペアで羊皮紙2mの課題提出をさせる(そこはもはや女神の領域です先生)
・以上、早急に取り掛かれ(キャッホーイ)


そんなこんなで現在向かいのテーブルでむっすり座っているのはスリザリンのドラコ・マルフォイ君。近くで見るとますます格好良い!

「もうさァ、これは運命としか言えないよね」
「悪夢とも言う」
「え?まさに天にも昇る気持ちだって?やだっ、ドラコってば」
「お前は今からでも聖マンゴに行って来い」
「そ、そこまで…」

とにかくドラコくんの居る手前失敗など許されない(したいけど)ドラコくんに恥かかせるわけにはいかないのだ(羞恥に打ちひがれる姿もそれはそれで見たいけど)ひっこめ私欲!

「…百面相してるとこ悪いんだが、もうとっくに始めてるぞ」
「ぎゃーす!な、何で」
「お前の所為で点数下げられるのはごめんだからな」


さっさか作業するドラコくんに「手伝おうか」と聞けば「黙って座っててくれると助かるね」と冷たく返されてしまった。だけどしょげかえっていた気持ちも、しばらくドラコくんを見つめていることで直ってきた(なんて単純…!)


「ドラコくん」
「何だよ」
「ちょー好き」

慌てて試験管を持ち直す彼を見てちょっと笑った。もーいいや、こうしていられるだけで凄い幸せだもん。これ以上を望むのってやっぱ贅沢な気もしてきた。
目を細めて嬉しそうに笑っている彼女の姿を目の端で捉えて、ドラコも少し目元を和らげた。

「わっ…!」


二人の近くの班が一足先に薬品を完成させたらしい。スネイプの元へと持っていくべく立ち上がった名も知れぬレイブンクローの男子生徒が何かの拍子に足を滑らせた。当然、手に持っていた薬品は彼の手を離れる。

「きゃっ!」

私達の座っている机に直撃した試験管。割れた破片は別として、薬品は私の右足を濡らした。
スネイプ先生の怒鳴り声も加わって途端に騒がしくなる教室で私は結構冷静な方だったと思う。医務室に行かなきゃな、と考えていれば自分を影が覆う。

「何ぼんやりしてる!医務室に行くぞっ」
「え、あ…ドラコくん、わ!」


膝の裏に腕を指しこまれて抱え上げられる。一気に遠くなった地面にびくついて彼の首に腕をまわした。


「あ、あの!ごめ」
「邪魔だ」

さっき試験管ぶちまけたレイブンクローの生徒が顔を真っ青にして謝っているのを視界に入れたと思ったら彼は次の瞬間にはドラコ君が口で唱えた何らかの呪文によって教室の後方にはじき飛ばされた。
すっかり目を回してしまっている彼にかける言葉を探しているうちにドラコくんは前進を遮るもの全てを蹴飛ばしたり魔法で弾き出したりして残骸の道を作っていった。


その後医務室に駆け込んだ私達をマダム・ポンフリーは驚いた顔で見つめた後、此方に来なさいと誘導してくれた。
手当の結果「処置が早くて良かった」との事で私よりもドラコくんのほうが安心したようだ。


「全く…僕に迷惑をかけるな」
「ごめんなさい」
「謝るなよ、別に君が悪いなんて言ってないだろ」

悪いのは全部あいつだ、くそ、次会った時は今日よりもっと酷い目にあわせてやる。今にでも人を殺しそうな表情で毒吐いているドラコくんにベットの上で体育座りをしながら目線を合わせる。二人分の体重で少し沈んだベットは真っ白で、目に入ったシルバーブロンドが余計綺麗に見えた。


***


「ありがとう、ドラコくん」

僕は急に照れくさくなって何か言ってやろうと目を見返してやったのに頬を僅かに赤くさせて本当に、ほんとに嬉しそうに笑っている彼女がいて、並べた沢山の言葉は呑み込んだ。
そして溜息と一緒に上塗りした一言を添える。


「君に怪我が無くて、良かった」
「ドラコくんのおかげだよ」

何かあったら本気で僕はあいつを殺しかねない。いつからだったろう、この少女を疎ましく思わなくなったのは。ストレートに想いをぶつけてくるそれを煩わしくなくなったのは、いつ
彼女が笑いかけてくれる事があたりまえになったのは
日々大きくなっていく存在に苛立たなくなったのは

いつ。いつ、だ。僕が変わったのは。この変化はきっと在ってはならないものだろうけど、もう否定のしようがないんだ

「どうしたの?ドラコくん」
「僕が欠陥品じゃくなったら、君どうする?」

彼女は首をかしげて何言ってんの、と僕の好きな笑顔を見せた。

「ドラコくんは欠陥品なんかじゃない。もし、そうだとしても、あたしはありのままのドラコくんが好きだよ」

その返答はちょっとばかり予想外で、だけど存外悪くない。こいつはストレートなだけに言葉に嘘が無くていい。この感情も、中々だった。
さてこの展開をどうひっくり返そうか。手始めに淡いピンクの唇に噛みついてやれば案の定真っ赤に染まった顔を見る事が出来て僕はそれなりに満足したのだ。




境界線を踏み越えた


ぐちゃぐちゃめたぼろの魔法薬学教室にて。

「…ハリー、見た?今の」
「マルフォイのやつすごい怒ってたな」
「あの子の恋ってとっくに実ってたってことじゃない?」
×