◎月×日水曜日(ハレ) ヴォルデモートさんに拉致されてから今日で1週間経った。今頃世間では一人の可憐な少女が闇の帝王に攫われたと大騒ぎだろう。壮絶な1週間だった。よく生きてるなと自分でも思う。このお屋敷のご飯はとても美味しい。それを糧に私は今日を一生懸命生きている。ヴォルデモートさんは今日もとても格好いい。 「…何だこれは」 「日記ですよ。私の」 「何故それがここにある」 「このお屋敷の図書室に保管しとこうと思って。いい?」 「いいわけあるか。燃やせ」 「なんで!ここには私の1年分の頑張りとか愛とか勇気とかがつまってるのに」 「くだらん。大体お前この屋敷には自分でやってきたんだろうが。俺様を人攫いのように扱いおって」 「あれはれっきとした人攫いだよ!心を!攫われた!」 「知った事か」 「私は私の日記を卿のと並べて置きたいの!」 「だから知った事……何故知ってる」 「へ?」 ヴォルデモートさんの顔がずずいと近寄り(あ。ほんの少し嬉しいです。)私を問い詰める。私が奇声を上げて喜ばなかったのはお腹に押し付けられてる杖の所為だ。お腹ってあんた。止めて!プニプニしてるから! 「俺様の日記があそこにあると、何故知っているのだと聞いておる」 「見てないよ!」 「目が泳いでる!」 「見てないもん!中身真っ白だったもん!」 「馬鹿め」 「…あ」 「まさか何か書いたりしとらんだろうな」 「…うん。誓って」 「目・を・見・ろ」 「私如きがヴォルデモートさんと視線を交えるだなんてそんな恐れ多い恥ずかしい顔近い爆発する」 「してみろ」 「ふふ」私とヴォルデモートさんの丁度上あたりから笑い声が聞こえた。私はその声の主をさっと脳裏に思い浮かべる。…きっとあいつだ。 「リドル…さん」 「やあ、昨日ぶり」 「……なまえ」 「ひーん!」 「説明しろ。なぜ、こいつがここにいる。さてはお前俺様の日記に何かしただろう」 「したよ」 「何故貴様が答える!そして、したのかやっぱり!」 「ごめんなさぁいいぃ」 む、むかしの卿の日記に私の存在をちょーっと挿入させておこうと思っただけで、私とのメモリーが増えたらいいな、みたいな感じで別に他意は無くて…。 「『今日もなまえは可愛い。俺様を慕ってついてくる様が小動物のようで愛らしくてならない。明日もきっとかわいいのだろう。困ったものだ。』」 「…」 「ぎゃーリドルてめーこらー」 「嬉々としてこんなことを書いていたから『以上は全て嘘である』って付け足してやった」 「よくやった過去の俺様」 ふわふわ浮いてるリドルと仁王立ちの卿がダッグを組んで苛めてくる。私はすっかり体を縮めて二人に対応した。 「だ、だって…ヴォルデモートさん、全然私のこと見てくれないんだもん!!」 だからせめて日記に小細工するくらいいいじゃないか! 悲しいとかそんなん言うな、ばか! そう思って書き綴った文字は書き終えた瞬間すうっと消えてくし、付け足されるし、変なの出るし…私がどんだけびびったことか!! 「せっかくホグワーツ飛び出してきたのに…っちょっとくらい報われたっていいじゃないかあぁ」 「開き直りおった」 「ホグワーツに戻してやれば?」 「それはならん」 「…ふうん。『僕』がそんなに入れ込む相手とは思えないけど」 「黙れ。…消えろ」 「はいはい、邪魔者は退散するとしよう」 若きころの卿、もといリドルは、私を一瞥するとふいと近寄ってきて、耳元で二、三言呟くと煙のように消えてしまった。私はぽかんと口を開けてヴォルデモートさんを見つめる。 「何を言われた」 「…」 「…おい」 「そっか」 「は?」 「…ふふ、ふ。そっか。そうだったんですね」 私は拳を握りしめて立ち上がった。思いっきり怪訝な表情でヴォルデモートさんはこちらを見てくる。 リドルの言葉はヴォルデモートさんの言葉だ。 だって同一人物なんだもの! 私は不審そうに顔を歪めているヴォルデモートさんの手を取って言った。 「おやつにしましょう、ヴォルデモートさん」 「…ダージリンだ」 「はいはーい」 私が泣きやんでほっとしたのかな。ヴォルデモートさんの言葉尻にそれっぽものを感じる。さっきの言葉を聞いた所為かもしれない。ヴォルデモートさんはさっきのリドルの台詞をこれ以上追及してくる気はなさそうだった。 ――「太古の大昔から、決まってる事がある。…君も知ってるだろう?」 うん、うん、知ってる。 私は忘れてただけだった。 ――「好きな子ほど、苛めたくなるんだ」 君の書いた捏造日記も、あながち間違いじゃないかもね。そんな言葉さえ残していってくれたリドルにはお礼を言いたい。 私は上機嫌で長い廊下を歩く。 左手にある温もりが感じられる幸せを、私は忘れかけていたよ。 「好きですよ、ヴォルデモートさん」 不意打ちがきいたらしい。驚いた顔のヴォルデモートさんを見て私はくすくすと微笑んだ。ああ、私の世界はこんなにも虹色だ。 だらしがないね あなたにかかれば、わたしなんて骨抜きなんですから |