「あ。おーい、お前ら、船長が帰ってきたぞ!」
「アレ?キャプテン、猫なんて拾ったんスか?」
「(ロー船長と猫…シュールだ)」
「飼い猫は拾っちゃダメですよ、キャプテン」
「それ以前に、うちにはもうすでに一人(1匹?)いるんスから」
「そういやなまえの姿見てないけど…アイツ一体どこに」

「んなー!にゃーぁ」

「「「………」」」



暫くの沈黙を経て、ローは深く溜息を吐いた。思い返すのは数十分前。上陸した島をなまえと二人で偵察に行った帰りの道のりだ。


「ローさん見てくださいあそこ、猫!」
ローが指さされた方角へ目をやれば、白い塀の上をとろとろと歩いていた猫が大きな欠伸をしているところだった。隣でなまえもふぁっと口を開ける。(猫の欠伸もうつるらしい)ローは欠伸を押し殺して、適当に相槌を打った。


「これで4匹目。…この島何だかのんびりしてますねぇ」
「お前が言うな」
「な、なんですかそれ」
「そう言えばキャロットはどうした」
「今洗濯中です」

他愛もない会話を交わしながら船に向かっていると、二人の目の前を一匹の猫が横切った。ローは何の考えもなく、その猫を視線で追ってなまえに言う。


「シャム猫だな」

それから一拍置いて、ローの隣からなまえは姿を消した。かわりにその場に残ったのは、今までなまえが身に着けていたフードつきのツナギと

「…にゃあああ」

一匹の、黒いシャム猫だった。


***

「こいつシャム猫の原物知らなかったらしい。俺に聞いて、存在がリアルになったんだろうな」
「つまり、そいつなまえなんですか?」
「ああ」
「その姿をイメージしたら原寸大になった…と。」

悪魔の実すげーな、悪魔の実なんでもありかー、と感嘆の声が上がる中、ローに抱かれたなまえはしょんぼりと項垂れていた。(「みんな他人事なんだから…。戻れないから困ってるのに」)
「安心しろ。」ローは口元を引き上げて、なまえの耳に囁いた。

「人間に戻す、とっておきを教えてやる」

心なしか輝くなまえの瞳。
抱き上げられて腕の中にいるなまえには、ローの妖しげな微笑みなど視界にも入らない。
こうして、騒ぐクルー達に上陸の指示を出したローは、なまえを連れて自分の部屋へと向かったのだった。






「あ、そうだ!」
「どうした?ベポ」
「キャプテンに針路の報告しろって言われてたの忘れてた」
「じゃあ先行ってんぞー」
「早くこいよー!」
「わかったー!」

ペンギンとキャスケットはベポの背中を見送って「可愛い子いねーかな」「どうだろうな」なんて会話を交わしつつ舟縁に足をかける。
その瞬間、ダダダダーっと背後から聞こえたけたたましい足音に飛び上がって振り返った。


「ななな、何だよベポか!驚かしやがって!」
「早くとは言ったけどなぁ、お前いくらなんでも」
「大変だよ!!!とにかく、大変だー!」二人の言葉を遮って、ベポはまくしたてた。

「話しに行こうとしたら、キャ、キャプテンの部屋から悲鳴が!」
「「悲鳴!?」」
「猫の!!」
「「猫の!?」」
「あ、あと女の子のも…!!大変だよ、どうしよう、二人ともー!」
「……」


(…なまえに一体何してんだあの人…!!)

「とにかく、女の子の声も聞こえたんだな?」
「う、うん…悲鳴だったけど」
「じゃあとりあえず人間には戻れたんだよな。よし、じゃあもう行こう」
「え…?でもオレ話」
「後だ後!今入ったらお前バラバラにされるぞ!」
「えええ!!なんで!?」

二人は左右からベポの両腕を掴んで船を降りた。

「そういやキャプテン、なまえの服は別で持ってたよな」
「そりゃあ猫になったらあのサイズは持って帰るしかないだろ。……あ」
「?」
「…ベポ、ちょっといいか」
「悲鳴の他に何か喋る声も聞こえたり…?」
「え?ああ、うんなんかね『ちょ、うわああー!まだ、まだ昼…ですけど!』だって」
「…」

美味しく頂かれてました。
(あ、あんなやり方、あんまりです…!ローさんのばか!変態ー!)
(戻ったんだから文句はねぇだろ。まだ言うなら服は永久に没収だ)(鬼だ…)

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