「キャプテン達……どこ行っちゃったんだろ」肩を落とした私はとぼとぼと見知らぬ街を歩き続けていた。午前中からこの調子だからお腹もペコペコだし足も疲れたしキャプテンはいなし港に戻ろうにも道は分からないしで精神的にも肉体的にもヘニョヘニョだ。 私は道の両脇にある芝生にぱたりと倒れた。(道に倒れるのをちょっと躊躇った結果である) 「あーもうだめ、ヘニョ死する」 「そんな死因があるならお目にかかりたいもんじゃのォ」 そう呟いた私の遥か上の方から、帰ってくるはずもない返事か戻ってきた。 「ぁえ?」と顔を上げれば目先に見えるふたつのつま先。 「行き倒れか。こんなところにおったら通行の邪魔になるけェ」低くどすの利いた声は間違いなく私に向けられている。 私このひと、どこかで見たことがあるよな… 「…うーん」 「?」 「あのう、どこかでお会いしましたっけ?」 アウチ!これ旧式のナンパじゃん。 しかし男の人は至極真面目に答えてくれた。 「いいや。わしの記憶が正しけりゃァ、一度も」 「ですよねー…すんません。私今ヘニョ死に目前で頭も体もへにょりんこりょぶりょれ(疲労ゆえに回らない口)」 「後半まったく通じてこんかったが……つまり」 腹が減っとるんじゃな?と尋ねられる。 私は横たわったまま頷いた。 「…近頃の若いモンは…自己管理も満足にできんのか。まったく呆れて物も言えんのォ」 「(何で説教されてんだろ…)すみましぇん」 「ほら」 「…ん?」 「腹の足しにもならんじゃろうが」 再び顔を上げた私の前の前には、差し出された手のひらと、その上に乗る赤い紙に包まれた飴玉だった。 私は目を輝かせ、それを受け取る。 「あ、ありがとう、ござます」 「フン…」 「さっそくいただきまーす!」 飴玉一つでもこの空腹が少しでも凌げるはずだ。 包を開いた私は、やや赤みがかった透明な個体を口に放り込んだ。そして、 「ぎゅひゅぇぇぇえ……っひゅっぱぁあ」 「梅風味じゃぞ。決まっとろうが」 「うめひゅうひってことじはいひららかったのにっ(梅風味って事自体知らなかったのに!)」 「ほれ噛んでみィ」 「んぐ、ガリッ」 言われたとおり歯を立ててみると、中からとろりとした液状の水あめが出てきたのが分かった。酸っぱさの中に広がる甘味が、舌先に広がる。 「…んまい」 「せっかちな奴じゃ」 眉をしかめたその人はちょっとだけ口角を上げた。 苦笑されたんだな、と思い私もつられて笑った。 「おじさん、親切な人ですね」 「それが仕事じゃからのォ。…まあ今日は休みじゃが」 「仕事…足長おじさん的な?」 「じゃかァしい!」 大きな掌に頭を鷲掴まれた。あんまり痛くないな、と思っていると、そのままぐしゃぐしゃ頭を撫でられた。 「腹の足しになったんなら、早う帰った方がええ」 「?」 「最近この辺りの治安は悪いからのォ」 「あ、そっか」 あたしが海賊って知らないから。 おじさんは私に背を向けると、格好よく後ろ手に手を振って歩き出した。 「…あの…飴、ありがとう!」 「おォ」 「おじさん、名前は」 遠ざかる足音がぴたりと止まった。 「――サカズキじゃ…。世間じゃ、赤犬で知られとるがのォ」 「……っ!!?」 足長おじさんは 大将 「キキキキ、キャプテーン!!」 「お。何だお前どこに行ってた」 「それどころじゃないんです!ヘニョ死んでたら!赤犬おじさんが、凄い優しくて!えええ!?」 「赤犬おじさん?…とりあえず落ち着け」 555666hit 迷子の女の子にお世話を焼く/赤犬(サカズキ) |