「もう知らねぇ、勝手にしろ」そう吐き捨てられて私はぐっと涙を堪えた。まわりでキャスケットやベポが慌てふためきペンギンがため息を吐くのが分かる。――勝手にしろって!?ああ、そう、そうさせてもらうわ! ローの服をぐっと引っ張り、驚き振り返るローの唇を奪う。ぼろぼろ零れ出てくる涙はそのままに「今までお世話になりましたさようなら!」と早口に告げて背を向けた。 「ね、ちょ、なまえ!ほ、本当に船を降りるの!?」 部屋で荷造りを進める私にベポは聞く。私はあくまで淡々と答える。 「そうよ」 「いやだよ!」 「私は別に嫌じゃない。もとから好きで乗ったわけじゃないし。クルーの皆にも、ロー、にも執着ないし」 「お、おれにもないの?」 「ないよ。当たり前のこと聞かないで」 「ダメだよ、なまえ!」 「何がダメなのよ」 「なまえはウソが顔に出るんだから、そんな分かりきったウソ吐くとすぐにバレちゃうんだから」 「何でウソって分かるのよ!」 「だから顔に出てるよ!号泣してるもの」 「うるせー!未練なんてあるかバカー!」 「未練あるんだね、うん、早く仲直りしてよっ」 ボスン!鞄に服を突っ込んで、私はベポをキッと睨見つけた。涙目のベポ。それ見たら何だかまた目頭が熱くなってきた。泣くなベポ!もらい泣きしちゃうから! 「だってあの男、あたしがせっかく買った医学書海に放り投げたのよ!」 以下回想 賞金額が上がったローにプレゼントを買いに行っていたなまえ。 「俺に黙ってどこに行ってやがった」 帰ってきたら何故か不機嫌なロー。 「街」 つられて不機嫌になるなまえ。 「あ?一人で出歩くなと言ったはずだが(女一人で歩いてたら何されるか分かったもんじゃねェだろうが)」 この島の治安が悪いからそれを心配しているロー。しかし言葉足らず。 「承諾した覚えはないし。買い物くらい一人で行きたいの(プレゼントなんて柄じゃないし恥ずかしい)」 それに気づかないなまえ。加えて言葉足らず。 「オイ…その紙袋は?なぜ後ろに隠す」 「……ローには関係ない」 「これは俺の船だ。関係ないもんなんて一つとしてねェ、寄こせ」 「やだ!」 「見せろ」 「やーだ!……ああ!!」 「あ」 ボチャン 「信っじらんない!高かったのに…っローのバカ!この独占欲強男!」 「…俺の所有物を独占して何が悪い」 「あたしはローのじゃない!」 「この船に乗った時点で決まってる」 「なら降りる!」 「…もう知らねぇ!勝手にしろ」 そして冒頭に戻るわけだ。ぐすっと鼻をすすったなまえを、ベポは何とも言えない目で見つめた。 「うーん…感想を、言わせてもらうと」 「言わなくていい」 「二人とも意地張りすぎじゃないのかな」 「言わなくていいってば!」 意地の張りすぎ?そうだよ、分かってるそれくらい。こんな事でケンカになっちゃって「何やってんだろう」とも思ってる。けど、でも、ローは… 「勝手にしろ、って言ったもん」 「…?」 おれのもの、に対してその言葉はつまり捨てられたも同然で。嫌いと言われた方が、失せろと言われた方がずっとずっとマシだ。主導権をこちらに譲るような台詞は、何があっても言ってほしくなかった。 ローに、言ってほしくなかった。 「…っじゃあね、ベポ」 これ以上ここにいたら決意が鈍ってしまう。立ち上がって鞄を手に取り、ベポの制止も聞かずに部屋を出た。 さっき歩いてみたけどこの島は中々良い島だ。治安が悪いと言ったってそれは一部だけだし何よりご飯が美味しい。悔いは、ない! 「…へえ、本気で船を降りる気か」 「!……そうよ!」 ローの方は見ずに答えた。そしてそのまま前を横切る。 「止めたって無駄だから」 「何で俺が止めるんだ。そういう期待はするな」 「…っ期待なんてしてない」 「そうか、ならさっさと行けよ。言っとくがこっちを向くんじゃねぇぞ」 「なっによ!顔も見たくないっていうの!?」 「ああそうだ。そんな泣きっ面誰が見たいもんか」 泣いてなんかいないし!こっちだって、アンタの顔なんてもう二度と見たくないわい!そう叫んでやろうかと思ったけど、実際顔はぐちゃぐちゃだろうからそういうわけにもいかず、結局ぐっと飲み込んで船べりに足をかけた。 その時、キャプテーンとキャスケットの声が遠くから聞こえてきた。それに続くのはペンギンの声。 「タオル持ってきましたよー!まぁったく、カナヅチだってのに海飛び込んだりするから…俺たちが助けに行かなきゃどうなってた事か!」 「あと本ですけどね、乾かせば何とか読めそうですよ。すぐに拾った甲斐がありましたね、ロー船長」 「テメェ等…わざとか」 バッと振り返ると、無理やり視界から外していたローの姿は全身水浸しで、その顔は気まずそうに歪んでいた。 (ここで、待ってたの?)わたしが来るのを、その格好でずっと?でもいざ目の前にしたら何と言っていいか分からなくて… ――こっちを向くんじゃねェぞ 「……う、っそつき!」 「おまえもな」 「いじっぱり、ぶきっちょ…!」 「だから、おまえもな」 ローは、泣きながら胸に飛び込んできたなまえを抱きしめた。その拍子に落とした鞄の中からは白いつなぎの裾が飛び出している。きっと無意識に詰め込んだんだろう。(本当に出て行きたかったら、こんなものは一番に置いて行くはずだ) ローは小さく笑って「おかえり」と囁いた。 嘘は吐くけどすぐバレる だから僕ら安心して嘘を吐けるわけです 原作設定でほのぼの/ロー ×
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