前回のあらすじ::ある日突然詐欺に遭ってしまった可哀相な女の子なまえ。評判のいい相談事務所とかに行ってみたんだけど、手口が相当鮮やかだったらしく何の手立ても見つからず、お金もお家も失ってちゃって路頭に迷ったところを、謎の好青年に助けられる。しかしその実彼は詐欺のスペシャリスト集団のボスで、なまえを路頭に迷わせた張本人だった、というおはなし。詐欺師「トラファルガー・ロー(通称キャプテン/任務時はボス)」の目的はいったい



「何やってんだ、ベポ」
「前回のあらすじの説明だよキャプテン」
「面倒臭ェ、止めちまえ」
「アイアイ!…ところであの子は?」
「まだ寝てる」
「もう11時だよ」
「…そうだな。そろそろ起こしに行くか」

新しい玩具を見つけたような、という表現がピッタリ合う表情を残して、キャプテンは奥の部屋へと歩いて行った。その姿を目で追うベポは心の中でそっと、ローに目をつけられてしまったあのかわいそうな女の子に「ドンマイ」と呟くのであった。







ノックもなしに部屋の戸を開けたローは目を見開いた。ベッドが、もぬけの殻だ。素早く辺りに視線を巡らせて、西側の窓が少し開いている事に気付いた。足音を立てずに窓際により、そっと窓の外を覗いてみた。
すぐに目に入るのは手入れの行き届いた芝や、均等な距離で植え付けられている木。そして、ぐるりと屋敷を囲む高々とした柵だ。


ローやその仲間たちが住んでいる場所は、建物が所狭しと並んでいる街中からは少し離れた場所にある大きな屋敷だ。真夜中の暗い道をうとうとしながらローに連れられて来られたなまえが、ここまでの距離やこの屋敷の広さを覚えているとは思えない。…と、その時ローの視界にコソッと動く人影が見えた。


手前から数えて1…2…3番目の木の下の茂み。ローはニヤリと残虐な笑みを深めた(さて、予想外の展開だな。…一体いつ悟られたのか)ローは胸の中のざわついた興奮を抑えることができなかった。
窓枠に足をかけた時、丁度背後で扉が開く。顔を出したのはキャスケットだ。


「ちょ、ど、何してんスかキャプテン!じゃない、ボス…じゃないキャプテン!!」
「俺の邪魔をするな」
「しますよ!!そんなに思い詰めてんなら俺たちがいつでも相談に」
「2階から飛び降りたくらいで死ぬか……チッ、気付かれた」

人影が慌てたように駆けだすのを見てローは舌打った。それと同時に窓枠を飛び越える。数秒間の滞空時間をへて華麗に着地したローは間髪置かずに地面を蹴って走り出した。

やっぱり人影の正体は"なまえ"のようだ。

「オイ、観念しろ」
「もう来てる!早ッ」

更に加速しようと試みたなまえの腕を掴んで、そのまま足払い。ドテンと尻もちをついたなまえにローは勝ち誇った笑みを浮かべた。なまえは文字通りの真っ青だ。

「忘れたか、お前に帰る家はねぇんだぞ」
「っ」

なまえは目を吊り上げて唇を噛んだ。怒っているようにも、泣くのを我慢しているようにも見える。まあ、たぶん前者だろうが。

「どうし、て…」

震える声が耳朶を揺らす。
こいつのこんな顔を見るのはもう少し先だと思っていたんだがな、とローはぼんやり考えながらなまえが口にする言葉の続きを待った。

「どうして、


 ―――そんなに優しくしてくださるんですか!」

は?ローはなまえを見下ろしたまま拍子抜けした声を出した。目を潤めながら唇を噛み締めるなまえは嗚咽を漏らしながら続ける。

「わ、わたしなんて何のお役にも立たないし、使えないし…やく、たたずだしっ」
全部一緒だ
「それなのに…お家に招いてくれて、あったかいお布団を貸してくれて…ほんとうに」

呆気にとられたままのローは何も言葉を返すことはできない。予想していた罵詈雑言の嵐も無ければ侮蔑と憎しみのこもった目でこちらを見てくることも無い。まさか、こいつ
ローの脳内に浮かび上がった可能性を肯定するように、なまえは微笑んだ。


「嬉しかったです、とっても…。感謝しています」




バカだ。


「でも、これ以上お世話になるわけにはやっぱりいきません!」と芝生の地面に正座しながらローを見上げる。

「トラファルガーさんのおかげで、心があったかくなりました。
まずはお仕事見つけて稼ぎ直します。それまでは友達の家にお世話になるつもりです。あ、これでも友達は多い方ですから、一人の家に一泊としても、ひーふーみ……って何で笑ってんですか?」

「っふ、はは…お前って、」

くっくっと咽をふるわせて笑うローに不思議そうな顔を向ける。
ひとしきり笑い終えたらしいローは、大きく息を吐き出して、自分も地面に腰を下ろした。

「あーあ…深読みしてたのがバカらしくなってきた」
「え?」
「いや、バカはお前か」
「んなっ!」

心なしか澄んだ瞳を空に向けて、ローは呟く。

「変な奴だ、お前は…」


どす黒い感情を腹の内に抱え、常に何十手も先を読んで行動し発言するローにとって、なまえはすさまじく「バカ」だった。その点なまえは目の前のことで精一杯。疑う事を知らず、面白いくらいに正直。自分とはまるで正反対な存在を、俺はいったいどうしたいのか。

どうするつもりで、連れてきたのか。


「トラファルガーさん?」
「…お前は生活が落ち着くまでここに居ろ」
「そっ」
「遠慮は止せ。何せ俺は…」

そこで言ったん間を置く。こいつを納得させられる、最大の一言


「…自他共に認める"おひとよし"だからな」

「!」
「こんな状態の人間を余所へ投げ出したら、心配で夜も眠れやしねぇ。俺の隈を濃くさせたいなら話は別だが」
「そ、そんな事は決して!」
「なら決まりだ」

なまえはおろおろと視線をさ迷わせていたが、やがて決意したように顔を上げた。


「トラファルガーさん!こんな役立たずな私ですが、言われた事は何でもします!
 ―――これからしばらくの間、どうぞ宜しくお願いします!」


こいつをどうするかって…?そんなのは知ったことじゃねぇ。ただ、今は手放したくないだけだ。この先のことはこの先決める。
ああ、楽しくなりそうだ

なまえが腰を折って頭を下げる中、ローはこっそりと夢を馳せ、微笑んだのであった。

詐欺師を弄する少女
「ローだ」「え?」「これからそう呼べ」「なっ、いきなりそんな」「何でもするんだろ?」「!」

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