シャボンディ諸島:ショッピング街


ねえねえキャプテン止めようよこんなこと。そーッスよ船長止めましょうよ恥ずかしいし。俺もその方がいいと思いますけど。ベポ、キャスケット、ペンギンの順にテンポよく続いた批評を「煩ェ!」とローは一蹴した。その表情はさながら般若の如しである。しかもちょっぴり泣きそうになっているから笑えない。


「これでもう、3日目だぞ!お前ら心配じゃねェのか…っ、薄情者共が」
「心配って…なぁ?」
顔を見合わせる3人。
「なまえならどこに出しても恥ずかしくねぇ子だし」
「別に朝帰りしてるわけじゃないんでしょ?」
「当然だ。そんなことしやがった暁にはタダじゃおかねぇ」
「ちなみにそれはどっちを?」
「どっちもだ。相手の野郎に関してはバラバラに切り刻んで海の藻屑にしてやる。なまえは、お仕置きだ」
「ちょ、船長目ェ座ってますよ!」
「なまえに限って男できたとも思えないですけどね…」
「それを確かめに来たんだろうが!つーかテメェ、ペンギン、あいつの魅力をなめんじゃねェぞ。天然ほど恐ろしいものってこの世に存在するのか?とおれは最近よく思う」
「そうですか」
「あ、なまえが店から出てきましたよ」
「何!?」


いそいそと建物の影に身をひそめるロー(と無理矢理付き合わされている3人)は、買物を終えて出てきたであろうなまえを視界に入れた。職業上、好んで穿くことのない白いスカート。春らしいデザインの長袖はさりげなく身体のラインを際立たせている。加えて足元を彩るのは、なまえお気に入りの黄色いパンプス。それを見たローはくらりと目眩がした。可愛い……じゃねェ!あんなお洒落して、一体誰と会うつもりだ。



「(船長の殺気が痛ェ…もしここで男が現れたりなんかしたら一体この人はどうなっ)」
「現れたぞ、男」
「「!!!」」


3人の視線の先でなまえがにっこりと笑い、その相手に向かって手を振った。


「キ、キャプ…キャプテンちょ!!」
「落ちついてくださいっ、バレますって」
「…あの野郎、バラす…―――ユースタス屋!」
「しーっ」










「(何やってんだアイツ等…アレで尾行のつもりか?)」
「これなんてどうですかね」
「あ?ああ。良いんじゃねェか」
「あ、でもこれも捨てがたい…うーん」
「あの野郎は…テメェから貰ったもんなら何でも喜ぶと思うけどな」

特に何も考えずに発した言葉だったが、後から考えれば、俺の口から出すには微妙に憚られる台詞だったように思える。しかしちらりと目線を脇に向け、いらぬ心配だった事に気付かされた(……何て顔してやがんだ)

「そう、だったらいいなぁ」
「…」
「あ!すぐに買ってきますね」
「ああ…」


トラファルガーが入れ込む理由も何となく分かる気がする。キッドは眉間を押さえながら溜息を吐いた。―――こいつと会ったのは、一昨日の朝。

***

「…お前、トラファルガーんとこの」
「あ。ユースタス・キッド!」
「テメェこんなところで何してやがるんだ」
「ご覧の通り。郵便配達の超ド短期バイトです」

何でもトラファルガーにやるプレゼントを、自分の稼いだ金で買いたいんだとか。時給900ベリーで朝から晩までの労働。ご苦労な事だと鼻で嗤ったが、翌日も、その翌日も忙しく駆け回る姿を目にすると、どうも妙な気分になってくる。


「オイ」
「あ、またユースタスさん。よく会いますね」
「…お前、そのバイト、いつまでだ」
なまえは首をかしげながらも答えた。「今日までですけど」
「…明日の10時にこの場所に来い。俺が、トラファルガーの買い物付き合ってやるよ」
「えええ!ほんとですか!実は丁度困ってて…やった、ありがとうございます!!」

***

以上が事の成り行きだ。なまえの中の予定では、この後でトラファルガーを呼び出し、それを渡すらしい。嬉々として話す様をつまらなく思いながら眺めた。ここまで惚れ込んでいると逆に奪う気もおきやしねェ。




「ユースタスさん、今日は本当にありがとうございました」
「別に。俺は付き合っただけだ」
「あたし一人だったら倍時間かかってただろうし…助かりました」
「…――じゃあこれでチャラにしてやるよ」
「えっ」

すっと腰を惹きつけて顔を近付けたところで、鋭い殺気が空気を裂いた。キッドの口角が再び持ち上がる。自分の首目がけて真っ直ぐ振り下ろされたそれが皮膚に触れる寸前で、キッドは能力によってその刃を回避した。

「危ねェな、トラファルガー」
「…」
「キ、キャプテン!?何でこんなところに」

クックッと咽を鳴らして笑ったユースタスさんは「冗談だ」と私に笑いかけた。
「中々楽しかったぜ…またな。なまえ」
背を向けて去って行ってしまった背中に声をかける間もなく、キャプテンが力強く私の腕を引いた。

「ちょ、どうしたんですか?キャプテン」
「煩ェ」
「な…なんで怒っ…?」
「別に怒ってなんかねェ」
「うっ、嘘です、だって…きゃ!」


路地裏の壁に背中を押しつけられて、目の前にあるキャプテンの顔を恐る恐る見上げる。目があったその瞬間、荒々しく口づけられた。
「、んん…ふっ、きゃぷ…っ」

胸を叩いても止めてくれる気配は無いので、なまえは半ば諦めるような気持ちでローの舌に応えた。(…もしかして、キャプテン)ふと頭に浮かんだ言葉を証明するように、やがて唇を離したローは吐き出すように言い捨てた。

「ずっと、アイツといたのか」

やっぱり
「…キャプテン、やきもち、ですか」
「煩ェ、俺の質問に……何笑ってんだ」
「好き!」


お腹の底がむず痒くなるような奇妙な感覚。たぶん、これが愛おしい、だ。赤くなったキャプテンの首に腕を回して抱きつきながら思った。このプレゼントを渡したら、キャプテンは一体どんな顔をするかな。
きっと細い目をいっぱい見開いて、それから優しく、呆れたように笑いかけてくれるに違いない。そんなキャプテンが私は大好きなんだから。
すきの原点
477774hit 原作ネタで嫉妬する話/ロー
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