キッドのばか!ハゲ死ね!叫ぶように言い放って出ていったなまえに、俺も悪態を吐く。ハゲ死ねってどういうことだ!


「あのクソ女まるで解かってねェ」
「それで俺のところに奴当たりに来た訳か」
「奴当たりじゃねェよ!愚痴りに来たんだ」
「嘘を吐け。お前がこの家に来るまでどれだけの公共物を壊してきたのか言ってみろ」
「ンなもん数えきれるか!」

ガスン、とキラーの部屋の机を蹴った。予想以上に硬くて爪先が痛くなったとしても今の俺には気にならねェ!なぜならとんでもなくイラついているからだ。畜生、何でこうなった!




「ほんと、あのアホバカ男全然分かってない!」
「それでウチのところに愚痴りに来た訳かァ?」
「愚痴りにきたんじゃないもん!やつあたりしにきたんだもん!」
「喧嘩なら買うぜ!」
「嬉々として言わないでよボニー」
「にしたってお前ここに来るまでの間どんだけの悪態吐いたか言ってみろ」
「そんなの数えらんないわ!」

ボスン、とボニーの部屋のベットに腰かける。悪口を言いまくったせいで若干喉が痛くなったとしても、今の私には全く気にならない!何故なら酷くイラついているからだ。チクショー!全部キッドが悪いんだ!





「あ、キラー?」
『ああ』
「もしかしてそっちにキッドいってねーか?」
『来てるぞ』
「やっぱりな」
『さんざん部屋を破壊した後酔いつぶれて爆睡中だ。…なまえがいるのか』
「まーな。こっちも今は寝てる」
『困ったもんだな』
「毎回愚痴聞かされるこっちの身にもなってほしいぜ」
『で?今回のは、どっちが悪いと思う』
「さあ。ウチには皆目見当もつかねーよ!」
『キッドはなまえがトラファルガーと仲良くしてるのが気に食わないらしい』
「ンなもん言ったってアイツ等幼馴染だろー?」
『彼氏としては複雑なんじゃないのか』
「まあでも、ウチらにしてみればキッドも我慢してる方だと思うよな」
『違いない』
「あ……わり、なまえ起きそうだから切る!じゃーな」
『ああ』

「むにゃ…き、っどぉ」
「(ンなに会いたいんならケンカなんかすんなよなぁ)オラなまえ起きろ!」
「んー…なぁに」
「なぁにじゃねーよ!もう外暗いぞ」
「ほんとだ」
「送ってくか?」
「うんや、だいじょーぶ。愚痴聞いてくれてあんがとね」



ボニーの家を後にして私はとぼとぼと帰路につく。最後にボニーに言われた言葉が頭の中にぐるぐる回っていた。

「少しは素直んなってやれよ?」
…そんなの分かってる。でも素直になるってどうやったらいいんだろ、素直んなんなきゃ、キッドに嫌われちゃうかな

「それは、やだなぁ」


泣くのを我慢して眉間にいっぱいシワを寄せてるから、きっと不細工なはずだ。だから上を向けば思いがけず白く瞬く星があって、あまりの綺麗さに目をしばたかせてしまった。
上を向いてぼろぼろ泣く奇怪な私に話しかけたそいつの声はどこか気まずそうで、顔を向ければギョッとされた。


「な、て…てめェ何泣いてんだよ!」
「…っ」


誰の所為だバカヤロー!ハゲヤロー!お前の所為で泣いてんだボケ!何か酒臭いんですけど!未成年コノヤロー!
ボロクソ言ってやりたかったのに、やっぱりボニーの台詞は消えてくれなくて。あたしは情けなく俯いてしまう。




「きら、いにならないで」


素直になりきれないあたしはそれしか言えなくて、また口をつぐむ。
いきなりこんなこと言って絶対変に思われた。あたしが素直なんてやっぱりおかしいもん。笑われたらどうしよう。そしたら今度こそぶん殴って


そんな不安を掻き消すように、キッドは私を引き寄せて力強く抱きしめた。


「…ばーか」
「んな!」

「俺がお前を嫌うかよ」
意地っ張りの仲直り
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