いつも通り学校から誰も居ない家に帰宅し、コンビニで買ったお弁当を夕食にして、冬の寒さに冷えたバスタブにお湯を落とす。
帰り道に通った駅前で配っていた入浴剤を、底に僅かに溜まった湯に降り入れれば瞬く間に乳白色が滲んでいった。


「そろそろ、かな」

テレビの電源を落としてリビングから出る。お湯の落ちる音が浴室に響き、わたしは軽く体を流して浴槽につかった。体の芯から暖まるのに、それは何故だか孤独を際立たせた。じわり、視界が滲む。



「なまえ」

幻聴、かと思った。それでも顔を上げると浴室の外に誰かが立っている事に気がつく。誰とは訪ねなかった。こんなに鈍いわたしでも気が付くくらいに優しい声色で、その人物はもう一度、わたしの名前を呼んだ。



「…ロー?」
「ああ」

ギ、と戸が押し上げられ、見慣れたパーカーが目についた。
ローは静かに浴槽の傍に屈んだ。


「どうして今、おれがここにいるか解かるか」
「…わかんない」

「お前が、ないてる気がしたんだ」


乳白色のお湯の中で膝を抱えながら、わたしはローの言葉に小さく笑った。凄いね。ローならわたしが地球のはしっこで蹲っていても、きっと気付いてくれるんだろうね。

だからこんなに寂しがり屋になっちゃったのかもね
だからこんなに孤独に臆病なのかもね
だから、だから――だからこんなに、ローのことが大好きなのかもね。

「ありがとう、すきよ…ロー」

だからね
きっといま、わたしはロー無しじゃ生きられなくて、だから地球のはしっこまで一人で行くことだって、きっとできないんだよ。
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